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Channel: イギリスおかし百科 –あぶそる〜とロンドン
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第101話 Devonshire splits / Cornish splits~デヴォンシャースプリッツ/コーニッシュスプリッツ~

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<Devonshire splits/Cornish splits デヴォンシャースプリッツ/ コーニッシュスプリッツ >

クロテッドクリームといえば?「スコーン」。ではスコーンといえば?「クロテッドクリーム」~それくらい切っても切れない関係のこのふたつ。~と言うか、スコーンにつける以外にクロテッドクリームっていつ食べるの?と思われている方も多いはず。確かに日本ではスコーンと一緒以外には登場しないクロテッドクリームですが、イギリスのクロテッドクリームの産地、デボンシャーやコーンウォール地方ではりんごのケーキはじめさまざまなケーキやプディングに添えたり、アイスクリームやライスプディングを作ったり、ファッジにしたりと、ちょっとリッチな生クリーム的な感覚でいろいろなものに利用します。

クロテッドクリームはスコーンにだけでは勿体ない!

クロテッドクリームはスコーンにだけでは勿体ない!

中でもわたしが、もしかしたらスコーンと食べるより、こちらの方が美味しいのでは、くらいに思っているのが「デヴォンシャースプリッツ」。Bun(バン)やroll(ロール)と呼ばれる小型のイーストで膨らませるパンにクロテッドクリームとラズベリーかいちごジャムをサンドしたもの。このパンは牛乳か生クリーム、バターと時にはラードが少し入ったふんわりしっとりした食感のもの。これにミルキーなクロテッドクリームとちょっと酸味のあるジャムの組み合わせはもう絶妙。スコーンよりずっと主張しないので、クロテッドクリームの優しい甘みを存分に堪能できるのです。ほぼ同じものなのですが、それよりちょっぴりサイズが大きくなって、コーンウォールで食べられているのが「コーニッシュスプリッツ」と呼ばれます。

ふわふわなパンとミルキーなクロテッドクリームの組み合わせは絶品です☆

ふわふわなパンとミルキーなクロテッドクリームの組み合わせは絶品です☆

今でこそこのどちらの地域でもクロテッドクリームをつけるのはもっぱらスコーンと相場は決まっていますが、もともとコーンウォール地方ではクロテッドクリームのお供は、スコーンではなく、このバン(スプリッツ)のほうが主流でした。このスプリッツという名前、パンを二つに Split(割って)してクリームをサンドするからというのもあるのでしょうが、第二次世界大戦以前、この辺りの地方では、バターやラードを使ってちょっとリッチに焼き上げた小型のバンやロールを「splits」あるいは「Chudleighs」と呼んでいたから、というのもあるそうです。このパンはオーブンから出すとすぐに、バターペーパー(バターを包んでいた紙)を表面にこすり付けて布で覆い、外側も柔らかな食感にするのが特徴なのだとか。ちなみに、Chudleigh というのはデヴォンシャーにある小さなマーケットタウンの名で、何故この町の名で呼ばれるようになったのかは謎。実は他にもこの小型パンには「rounds」「tuffs」「farthings」「ha’penny buns」なんて色々な呼び名があるのだそうです。名前はともかく、一度試して欲しいこのパンにクロテッドクリームとジャムの組み合わせ。パンを焼くのが大変なら、近所のパン屋さんでほんのり甘い、普通の小さなパンを買ってきてもらえばそれでもOK、パン自体は実にプレーンな白パンですから。それにしても目からウロコの美味しさ、まぁスコーンが今のようにメジャーになる前は皆こうして食べていたのですから、美味しくて当然かもしれませんが。生クリームバージョンもありますが、断然クロテッドクリームがおススメですよ。

「サンダー&ライトニング」クロテッドクリームにほろにがもいいアクセント☆

「サンダー&ライトニング」クロテッドクリームにほろにがもいいアクセント☆

なんでもデヴォンシャーにあるTavistock Abbey では11世紀に、クリームとジャムをバンに添えて提供していたという資料が見つかったとかで、常にコーンウォールとどちらがクリームティー(紅茶&スコーンにクロテッドクリームとジャムの組み合わせ)の本場かを争っているデヴォンは、我こそクリームティーの発祥の地と大喜び。お隣同士ですから仲良くすればいいのにね、というのが正直なところですが(笑)。そうそう、デヴォンシャーあるいはコーニッシュスプリッツの別バージョンとして、ジャムの代わりに、ブラックトリークルやゴールデンシロップをかけるバージョンがあるのですが、こちらの名前は「Thunder and lightning(雷と稲妻)」というこれまた素敵なネーミング。そしてこれがまた実はとってもおススメなのです。ゴールデンシロップバージョンは少々お子様向けのテイストですが、ブラックトリークル(手に入らなければモラセスでも)だと、苦味の利いた大人の味(?)に。これまただまされたと思って是非一度お試しあれ~☆

 


第102話 Dorset apple cake/ Somerset apple cake~ドーセットアップルケーキ/サマセットアップルケーキ~

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<Dorset apple cake / Somerset apple cake  ドーセットアップルケーキ/サマセットアップルケーキ>

ドーセットアップルケーキ、サマセットアップルケーキ、まとめてウエストカントリーアップルケーキとも称されるりんごのケーキが本日の主役。イングランド南西部、デヴォンやコーンウォール、ドーセットやサマセット辺りをイギリスでは大雑把にウエストカントリーと呼ぶのですが、前回お話しに登場したコーンウォールやデヴォンがクロテッドクリームなどの乳製品で有名なら、ドーセットとサマセットの名物はなんと言っても名物のりんごを使ったアップルケーキ。焼き立てにお隣の名物クロテッドクリームやアイスクリームを添えてプディングとしても絶品ですし、翌日のりんごが馴染んだところで、ピクニックやランチに持っていってもこれまた最高。dorset apple1

さてさて、どんなアップルケーキかと申しますと~これがちょっと厄介なのですが他の地方菓子と違い『こうでなければいけない』がないのが特徴。それぞれの家庭独自のレシピがあり、皆それぞれ自分のレシピが一番美味しいと思っているという、なんとも一言では説明し難いケーキなのです。共通するのはスライスあるいは細かくカットしたりんごをとにかくたっぷりケーキ生地に焼き込む点。作り方は大きく分けて2種類あります。バターを柔らかく練って、砂糖や卵を順に混ぜていくクリーミングタイプ。もしくはスコーンのように、粉の中でバターを細かくさらさらにしていくrub inタイプ。どちらもりんごからでる水分を考え、焼く前の生地はやや固めです。そしてシナモンなどのスパイスを加える派加えない派、サルタナなどのドライフルーツを入れる派入れない派。焼く前の生地の上にデメララシュガーなどのお砂糖をふる人、スライスしたりんごをのせる人などなど。そしてどれも総じて美味しいというのも特徴(笑)。当然ドーセットアップルケーキやサマセットアップルケーキの発祥の店やオリジナルを名乗る店などもなく、でもドーセットやサマセットを訪れたならば、「やっぱりアップルケーキを食べなくちゃね」と皆が思うというケーキなのです。ですからお店によって家庭によって、見た目はいろいろ。でもそれが、ドーセットアップルケーキであり、サマセットアップルケーキなのです(^^)。もうひとつ、サマセットで有名なものにりんごで作るお酒cider(サイダー)があります。そこで、このサイダーをアップルケーキに加える、サイダーアップルケーキもまた名物のひとつ。他にもイギリスにはりんごやサイダーで有名な土地にKentやHereford などがありますが、なぜかアップルケーキといえばウエストカントリー。まぁとにもかくにもウエストカントリーのアップルケーキ、彼の地を訪れたら是非一度ご賞味ください、いえ、どうぞ食べ比べを楽しんでみてください^^。

お店により、作り手により、見た目も味も色々☆

お店により、作り手により、見た目も味も色々☆

ところでいつも思うのですが、あまりにもふつうで、その存在が当たり前すぎる大切なものほど、みんなが知っていることだしと、あえて説明してある文献は少ないもの。このウエストカントリーケーキにしても一体いつ頃から家庭で作られるようになったのかと、昔のレシピ本をめくってみても、りんごのレシピは沢山載っているのに、意外とこういったいわゆる普通のアップルケーキを載せているものは少ないのです。例えば、有名なビートン婦人のHousehold Management(1861)にも、Eliza Actonの料理書にも、りんごのレシピは沢山載っているのにこのタイプのりんごのケーキの姿は見当たらず~。Acton のModern cookery for private families(1845)に唯一「apple cake」 としてのっているケーキはペストリー生地で煮たりんごを包んで焼くパイのようなスタイルですし。アップルフランやアップルシャルロット、りんごのプディング(スエットペストリー蒸し)やゼリー寄せ、果てはApple a la Portugaise(りんごのポルトガル風)なんてものまで載っているのに。仕方ないので、今日は手前味噌。わたしのお気に入りのドーセットアップルケーキのレシピをご紹介いたします。もちろんみんなのように、わたしも自分のレシピが一番美味しいと思っていますよ
(^^)

りんごがたっぷりなのでじっくり焼いてくださいね☆

りんごがたっぷりなのでじっくり焼いてくださいね☆

<ドーセットアップルケーキ>

① 柔らかくした無塩バター165gに、ソフトブラウンシュガー200gを加えて白っぽくなるまでよくすり混ぜます。卵2コも少しずつ加えながらさらに混ぜます。
② 薄力粉210g、アーモンドパウダー50g、ベーキングパウダー小さじ2、ミックススパイス、シナモン各小さじ1/2を合わせてふるい入れて、牛乳大さじ2も加えてごく軽くミックス。
③ 次に皮をむいて5mm程度の角切りにしたりんご300gを加えて、全体がなめらかになるまで混ぜれば生地は完成。
④ 直径20cm位の紙を敷いた丸型に入れて、デメララシュガーをたっぷり表面にふりかけたら、170℃に余熱したオーブンで60~70分ほどじっくり焼いて完成です。(途中表面が焦げそうなときは上にアルミホイルをかぶせてカバーしてくださいね)
粗熱が取れたくらいで、クロテッドクリームやバニラアイスなどを添えて召し上がれ。
もちろん味が馴染んだ翌日も美味しいですよ☆

※ソフトブラウンシュガー・・・日本で手に入るブラウンシュガーときび糖半々ずつ混ぜて使ってもOK
※ミックススパイス・・・イギリス菓子によく使われるスパイス
コリアンダー50%・オールスパイス30%・シナモン10%・ジンジャー5%・ナツメグ5%を混ぜ合わせて自分でも作れます
※デメララシュガー・・・細かいざらめ糖など、目の粗い茶色いお砂糖で代用可

 

 

 

第103話 Apple dappy / Devon flat ~アップルダッピー/デヴォンフラット~

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<Apple dappy/ Devon flat アップルダッピー/デヴォンフラット>

前回りんごの名産地として名高いサマセットとドーセットのアップルケーキをご紹介しましたが、もうひとつ、ウエストカントリーのりんごを使ったお菓子の中でどうしても触れておきたいお菓子があります。その名は「Apple dappy(アップルダッピー)」。ケーキと言おうか、プディングと言おうか、はたまたスコーンの仲間のようでもあるし~という曖昧なところにポジショニングしているのですが、まず見た目はこんな感じ。

apple dappy1

シナモンロールのような、イギリス風に言えばチェルシーバンズのような姿をしています。生地はほぼスコーンと一緒。イーストではなくベーキングパウダーで膨らませる生地です。その生地で角切りにしたりんごをこれでもかと大量に巻き込み、ロールケーキのようにカットして並べて焼いたもの。ですから味はりんご入りスコーンのようでもあり、生地より多いのではないかと思うほどの量のりんごのせいでアップルケーキのようでもあるのです。しかもこれには、ただ表面にデメララシュガーをふって焼くタイプと、レモン風味のシロップをひたひたになるほどかけて焼くタイプの2タイプがあり、後者となると、スコーンというよりはスプーンで食べるプディング。焼き立てに、カスタードソースをたっぷりかけていただけば、焼けたりんごにレモンの風味も加わわり、もう格別。アップルダッビーを前にスプーンを握っていると、イギリス菓子が好きで良かった~と心底思います(笑)シロップなしバージョンもクロテッドクリームを添えていただけばなかなかですし。

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角切りにしたりんごをこれでもかと巻いていきます☆

ただ、このアップルダッピー、前回のサマセット&ドーセットのアップルケーキ同様調べてもあまりバックグラウンド的なもの見えて来ない。デヴォンシャーアップルダッピーと呼ばれることもあるので、デヴォンでよく食べられてきたのは間違いないのでしょうが、ヴィクトリア時代からあるという人、1980年以前の本にはどこにも出て来ないという人さまざま。名前も然り、「Dappy =お馬鹿さん、間抜け」なんて可愛そうな名前がつけられているのも何故なのか分からない。もしかしたら他の意味があるのかもしれないし、、、ということで、あまりこれ以上語ることはできないのですが、皆さんのイギリス菓子整理ダンスの片隅にでも「アップルダッピー」君、南西部のタグをつけてしまっておいてください。いつかアップルダッピーブームが来るかもしれないし!来ないか、、、なら起こしちゃう?~なんてダッピーな話しはこの辺にして、、。

熱々にカスタードをたっぷりかけて召し上がれ☆

熱々にカスタードをたっぷりかけて召し上がれ☆

毎回ひとつのお菓子について書いていると、そこから連想ゲームのように「次はこれを書こう!」というお菓子が浮かんでくる、エンドレスなこのおかし百科、今日はデヴォンついでにもうひとお菓子、「Devon flat (デヴォンフラット)」にも言及しておきましょう。

クロテッドクリームが香るデヴォンフラットは素朴で美しい紅茶のお供☆

クロテッドクリームが香るデヴォンフラットは素朴で美しい紅茶のお供☆

デヴォンフラットは、その名もデヴォンの平たいお菓子。デヴォン名物クロテッドクリームをバター代わりに使用した薄いスコーンのような、ソフトなビスケットのような食感の地方菓子です。バターより日持ちのしないクロテッドクリーム、さぁどうやって食べ切りましょう~なんてデヴォンの日常の中で、アップルダッピー同様きっと自然と生まれた家庭のレシピなのでしょう。あまりに簡単に出来るので、レシピを載せておきますね。クロテッドクリームはまだまだ高級品の日本、食べ切れなくてさぁ困った~なんて悩みはあまりないとは思いますが、万が一買い過ぎちゃったけれど、どうしよう~なんて時にでも是非作ってみてください。

<デヴォンフラット>
① 薄力粉225gにベーキングパウダーを小さじ2、塩ひとつまみを加えてボールにふるい入れ、グラニュー糖100gも加えて混ぜておきます。
② ①のボールにクロテッドクリーム100gを入れてゴムベラやカードで切るように混ぜていきます。次に卵1個を溶きほぐして加えて生地をひとまとめにします。水分が足りないようであれば牛乳大さじ1を加えましょう。
③ めん棒で生地を約7mmの厚さに伸ばし(必要であれば打ち粉を使って)、直径7.5cm位の丸型で抜きます。210℃に予熱したオーブンで10分ほど焼き、軽く焼き色が付いたら完成です。

バターとはまた違う、クロテッドクリームのミルクっぽさがふんわり香る優しい味わいのおやつです。生地をオーブンに入れたら、いつもおいしいクリームやバターを分けてくれる牛さんたちにたまには感謝をしつつ、紅茶の準備をしましょうか。焼き時間はたったの10分、あっという間にオーブンからはいい匂い~。

 

第104話 Iced buns/ Mothering buns/ Colston buns~アイストバンズ/マザリングバンズ/コルストンバンズ~

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<Iced buns / Mothering buns/Colston Buns  アイストバンズ/マザリングバンズ/コルストンバンズ>

イギリスの地元密着系パン屋さん~オシャレじゃないと言おうか、いえ失礼、ばりばりのフランス系じゃないってこと~でよく見かけるIced buns またはIced fingers。小型のパンに白またはピンクのアイシングがかかっていて、時には間にクリームやジャムがサンドされていたり、上にチェリーがのっていたりするレトロ感満載のパン。丸ければアイストバンで、細長ければアイストフィンガーと呼ばれるそれは食事パンというよりはお茶のお供。どこか昭和な風情のこの素朴で愛嬌があるパンを見ると思わず笑顔になってしまうのはわたしだけではないはず。

見ているだけで和むアイシングのかかった素朴なパン^^

見ているだけで和むアイシングのかかった素朴なパン^^

今日まずこのアイストバンズをご紹介したのは、次なる「Mothering buns (マザリングバンズ)」というパンをご紹介したかったから。これからいくつかパンをご紹介していきますが、それらはイギリス全国区のアイストバンズと違い、イングランド南西部Bristol という港町限定の地方パンです。まずは小型の丸いパンにアイシングとハンドレッズアンドサウザンズ(カラフルなプチプチシュガー飾り)がちりばめられたこちらがマザリングバンズ。

こちらもまたカラフルでキュートなマザリングパンズ☆

こちらもまたカラフルでキュートなマザリングパンズ☆

イギリスではイースター前のレントの期間に入って4週目の日曜日をMothering Sundayといって祝う習慣があります。詳しくはその時に食べる代表的なケーキ「シムネルケーキ」の時に説明しましたが、ブリストルではこのマザリングサンデー前の土曜日にこのマザリングパンズを食べる習慣がありました。でもちょっとこのカラフルなシュガーって今どきじゃない? と思われたあなた、そのとおり。昔はこのハンドレッズ&サウザンズではなくキャラウェイシードまたはアニシードのコンフィがアイシングの上にのせられていました。ここで思い出すのが、このブリストルのご近所の有名な町Bathの「バースバンズ」。あれにも昔キャラウェイシードのコンフィが入っていましたね。19世紀20世紀初頭まではパンにキャラウェイシードのコンフィを入れるのはとても人気のフレイバーだったそうです。ドライフルーツやマジパンたっぷりのリッチなシムネルケーキに比べると、プレーンな白い丸パンにアイシングとはいかにも質素なマザリングサンデー用のお菓子ですが、ブリストルのパン屋さんでこのパンが焼かれるのは、1年で本当にこの1日だけだったそうですから、スペシャル感では負けていません。カラフルなコロンとした姿はなかなか可愛いですし、普段よりちょっぴりお砂糖と油脂を加えてリッチにした生地にアイシングを施した甘いパンは、レントの節制期間中にしてみればうれしいご褒美です。シムネルケーキに押されて今ではほとんどその姿を見ることはなくなってしまいましたが、このキュートなマザリングバンズ、地元のパン屋さんにたま~に復活するとかしないとか、、。

スパイスとオレンジピール入りのStarvers はどこかホットクロスバンズにも似た香り☆

スパイスとオレンジピール入りのStarvers はどこかホットクロスバンズにも似た香り☆

さてイースターに関連したブリストルのパンがもうひとつあります。「Ha’penny Starvers」「Tupenny Starvers」と呼ばれるそれは、ブリストルにあるSt Michael on the Mount Without Church でイースターマンデーの次の火曜日に行われる礼拝で配られていたもの。もともとはイースターで引っ張りだこの聖歌隊の労をねぎらうために配られていたのが、のちに礼拝に参加した教区の人全てに配るようになったのだとか。ドライフルーツとスパイスが入った香りの良いこのパンはまずはお腹をすかせた聖歌隊がすぐに食べられるようにちいさなタイプのHa’penny Starvers 、そしておうちに持って帰って家族で食べられるように大きなタイプのTupenny Starversの二つが配られていました。最も古い部分は15世紀に建てられたというSt Michael on the Mount Without 教会、今は老朽化のためクローズしておりさらに昨年10月におきた火災では残念なことに一部焼失してしまいましたが、お隣にあるSt Michel on the Mount school では伝統が引き継がれ、子供たちに今もこのパンが配られているとのことです。

このパンが一人1つもらえたら嬉しいですね(^^

このパンが一人1つもらえたら嬉しいですね(^^

ところでブリストルではもうひとつ、前述のStarversとよく似た「Colsoton Buns」と呼ばれるパンが毎年11月にColston School の生徒たちに配られます。そのパンにもスパイスとシトラスピール、ドライフルーツ類がはいっており、やはり生徒たちがその場で食べる小さなものと、おうちに持って帰る用の大きなものとの2つ。小さいほうのコルストンバンズは単にStarvers あるいは Ha’penny Starvers と呼ばれ、大きなほうの別名はDinner plates 。こちらは8分割できるようになっているのが特徴でその名のとおりディナープレートサイズ。300年も続くこの伝統、子供たちはこの時10ペンス硬貨もパンと一緒にもらえたので(今の時代は分かりませんが)、まるでお年玉とお餅がもらえる年に一度のお正月のよう(^^)。このコルストンバンズの名前の由来はブリストルの貿易商Edward Colston(1636-1721)。当時のブリストルは西インド諸島などとの貿易で大いに盛り上がっていた時代。コルストンスクールは彼が貧しい100人の子供たちを集めて1710年に創設した学校で、毎年11月のCharter Day(ブリストルのMerchant Venturers Society が1639年にチャールズ1世から憲章を与えられたことを祝う日)の礼拝で、生徒たちにこのコルストンバンズが配られていたのです。なんでもEdward Colstonが子供の頃通っていたロンドンのChrist’s Hospital school では毎年イースターに Starver と呼ばれる小さなパンを配っていたらしく、そこからこの伝統が来ているのではないかと言われています。

今回ご紹介した3種類のバンズ、どれもブリストルの地に深く根ざしたものばかり。ここではブリストルの歴史や文化まで詳しくご紹介するスペースはありませんが(もちろんそんな知識もありませんが ^^;)、パンひとつ説明しようと思っただけで、大きな網の端っこの糸を手繰り寄せるように、気をつけないと話しがどこまでも広がっていってしまいそう。今日のところはこの糸は手放して、また違う甘い糸を探しに出かけましょう~☆

第105話 Chelsea buns ~チェルシーバンズ~

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<Chelsea buns チェルシーバンズ >

イギリスのパンの中で「バンズ」と名のつくものは沢山ありますが、中でもトップクラスで有名なのが今日の主役「Chelsea buns(チェルシーバンズ)」。二番手は恐らく「ホットクロスバンズ」ではないかと思うのですが、この二つのバンズで名を馳せたのが、the Old Chelsea Bun House というベイカリー。始まりは18世紀になるかならないかのぎりぎりの頃、場所はロンドンのJew’s Rowという通り沿い。現在その通りは残っていませんが、 今のSloan Square の近くです。なので正確にはChelsea(チェルシー)というよりは「Pimlico (ピムリコ)バンズ」と言いたいところですが~道も変われば街の区画も変わるもの、細かいことは放っておいてまずは話を進めましょう。
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とにかくたいそうな人気だったと言うこのベイカリーのチェルシーバンズ、ひとつ1ペニーの甘いそのパンを求めて、老いも若きも、富裕層から庶民までが列をなし、1日中客足が途切れることはなかったとか。Handファミリー4代にわたり受け継がれたこのChelsea Bun Houseの看板ですが、とりわけ有名なのが「Captain Bun」の異名を持つRichard Hand氏。彼の時代には King George II 世がお妃のCaroline や子供たちを伴ってチェルシーバンズをしばしば買いに訪れ、次のGeorge III世も引き続き贔屓にしたので、いつしかRoyal Bun House と呼ばれるようになるほど。当時の店の様子を描いた絵を見てみると、なるほど普通のパン屋さんとは大分違う趣で、店内には世界各国から集められた不思議な時計や置物などが沢山飾ってあり、ちょっと不思議なアートギャラリーのよう。そこにはテーブル椅子も置いてあり、お茶を飲みながらチェルシーバンズやケーキを食べることも出来たようです。長い平屋の店舗に沿った歩道にはファサードのように店から軒が延びており、雨の日も慌てることなく買い物ができるような立派な店舗です。ロイヤルファミリーですらも自ら買い物に訪れたくなるのですから、よほどよい雰囲気だったのでしょう。ただしそんな悠長なことを言っていられないのがイースターのGood Friday。普段から相当数のチェルシーバンズを売りさばくのに慣れていたであろうチェルシーバンハウスも、この日ばかりはもうてんてこ舞い。どこまでもどこまでも続く長い行列、この日は店も早朝3時4時にオープンするにもかかわらず、イースター限定のホットクロスバンズを求めて、近隣は警官も出動するほどの大混乱。あまりの騒ぎに店側も対処しきれず、当時亡きRichard氏のあとを継いでいたMrs.Handは1792年のイースターにはこんなチラシを出すことにします。「Royal Bun House, Chelsea, Good Friday, No Cross Buns(グッドフライデーにホットクロスバンズは販売はしません)」。店の売り上げよりも、近隣に迷惑をかけるのが耐えられなかったようです。それ程に人気を誇ったチェルシーバンハウスも、時代の流れ、流行の流れには逆らえず、1839年に店をたたむことになります。それでもその年のGood Friday のホットクロスバンズの売り上げ総数は24,000コもあったということですが。。。

くるくる巻いてカットするのも楽しい作業☆

くるくる巻いてカットするのも楽しい作業☆

 

~と、ここまでお話ししてきて、ようやく「チェルシーバンズ」そのものの説明です。チェルシーバンズとはSticky buns とも呼ばれる、甘いシロップが上に塗られた、触るとペタッとしそうなイギリス菓子パンの代表選手。生地は牛乳や卵も入りソフト、その生地でバターやブラウンシュガー、カランツ(小型の干しぶどう)などをくるくる海苔巻きのように巻いたらスライスし、断面を上にして型に並べて焼いたもの。発酵の途中でお隣同士とくっつくので、一つ一つは四角く焼きあがるのが特徴です。いわばイギリス版シナモンロール。シナモンは入っていることもありますが、基本はなくともOK。と言っても、バリエーション好きの現代、スーパーやベイカリーで売られているそれはシナモン入りからナッツ入り、オレンジにりんごにチョコレート、なんでもありの今のチェルシーバンズ、それはそれで美味しいのですが。ところで18世紀一世を風靡したBun Houseのチェルシーバンズはいったいどんな姿だったのでしょう?実はお店の様子を描いた絵や新聞、「軽くて甘くて美味しい」などといった簡単な感想はあっても、何故か肝心のチェルシーバンズそのものの詳細な絵やレシピが見当たりません。それほどの人気ならオリジナルのレシピでなくとも、当時の料理書に載っていてもよさそうなものなのですがそれもなし。ちなみにディケンズはじめ、当時活躍していた人たちの小説や随筆などにもチェルシーバンズは度々登場しています。大抵はほめているのですが、ジョナサン・スイフトだけはどうもお気に召さなかったよう。彼のチェルシーバンズの評価は、”Pray, are not the fine buns sold here in our town? Was it not R-r-r-r-r-r-r-r-r-r rare Chelsea buns? I bought one today in my walk; it cost me a penny; it was stale, and I did not like it, as the man said(Journal to Stella 1711)彼が散歩の途中1ペニーで買ったチェルシーバンズは古くパサパサになっていて、全然美味しくなかったそうです。さすが時の風刺作家、甘いチェルシーバンズにさえも甘くはありません。でも美味しい美味しくないの前に、みんな見た目とか、何が入っているとか書き残して欲しかったな、、なんて。

お茶のお供に甘いチェルシーバンズは最高です☆

お茶のお供に甘いチェルシーバンズは最高です☆

まぁなにせ200年以上前の話なので、実は諸説あり、当時チェルシーバンズを売っていたお店はthe Old Chelsea Bun House 近くに数軒あって互いに競い合っており、その中のReal Old Original Chelsea Bun-house という店が一番最初にチェルシーバンズを作り出した店なんだとか、オリジナルのチェルシーバンズは今のようにカランツなどのドライフルーツは入っておらず、渦巻き型でもなくもっとずっとシンプルだったのだとか、ここまで書いてきたものと随分違う内容のものも多いので、今日はこれ以上触れないことに(笑)。一応これまでの定説と言われているものを今日は書いてみました。
いかにも本格的な顔をしたパンが並ぶアルティザンベイカリーももちろん魅力的ですが、普段は素通りしてしまうスーパーのパン売り場にも、実はイギリスらしいお話を持ったパンも色々あって面白いもの。ドライフルーツ入りの渦巻きチェルシーバンズを見つけたら是非手にとってみて下さい。手をぺたぺたさせながら、渦巻きをくるくる解きながら食べるのは大人になっても楽しいものです(^^)
The best of all buns, on account of their buttery melting sweetness, and the fun of uncoiling them as you eat them Jane Grigson 「English Food」

第106話 Bedfordshire clanger~べドフォードシャークランガー~

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<Bedfordshire clanger ベドフォードシャークランガー>

スーパーやお菓子業界では毎日のように新商品が発売され、便利なキッチン家電やグッズなどももうついていけないほど日々どんどん進化していますが、イギリスのお菓子(プディング)事情をこれでもか~と大幅に変えたのはオーブンレンジの発明。キッチンの熱源が薪や石炭から、ガスや電気に移行するに伴いイギリスのキッチン事情は大幅に進化、「茹でる」から「焼く」へ調理法がスイッチします。一般家庭にオーブンが普及する以前はパンなどは村のパン屋や共同の釜で焼いてもらい、毎日の食事の調理は家の炉の上に大きな鍋をかけ、お肉でもプディングでも全部一緒くたにその中でぐらぐら茹でる~というのがもっとも一般的でエコノミーな調理法。つまりプディングも基本茹でる、あるいは蒸していたわけですが、その後各家庭にオーブンが普及すると、時間のかかるボイルやスチームという調理法より、オーブンでベイクするという調理法のほうが断然人気が上がります。そうしてさっくり軽く焼きあがるお菓子が手軽に作れるようになると、お湯の中で長時間茹でた重~いどっしり食感のプディングはオールドファッションだと、どんどん見向きもされなくなり、次第に姿を消していきます。ただし、たまにはそんな時代の変化に柔軟に対応し、姿を変えつつ生き残ってきたプディングやお菓子たちもあるにはあります。生地までの作り方は一緒でも、茹でる調理法からオーブンで焼くようになった「ローリーポーリー」などがそのよい例。さぁてここでようやく本題、今日の主役「Bedfordshire clanger(ベドフォードシャークランガー)」もそのひとつ。bedfordshire clanger1

ロンドンからちょっと北上したところにあるベドフォードシャー。この地域に古くから伝わるベドフォーフォシャークランガー。生地は小麦粉とスエットで作ったペストリー、それで細長い棒状にフィリングを包んで焼いてある一見極普通のパイ。面白いのはそのフィリングです。甘いのか、はたまたお食事系のセイボリーフィリングなのか見た目では判別がつきませんが、答えはなんとその両方。片側にポークなどのお食事系、もう片側にはりんごやジャムなどのデザート系と、1本で2度美味しいペストリーなのです。お肉やチーズもいいし~でも甘いパイも食べたいし~なんてちょっとずついろいろ食べたい今時女子には嬉しいベドフォードシャークランガー。一時は忘れ去られていたのですが、50年ほど前、元は茹でる調理法だったクランガーを、SandyにあるGunns bakeryというベイカリーがオーブンで焼いて提供したところ次第に人気を取り戻し、今ではまたその名が広く知られるようになりました。

ポークとりんごは合いますし、意外と両者混ざらず焼きあがるのです☆

ポークとりんごは合いますし、意外と両者混ざらず焼きあがるのです☆

さて、その現代のベドフォードシャークランガーは長さ12~14cm、幅6~8cm位のさっくりペストリーにつつまれた食べやすいサイズのものですが、もともとのクランガーとはどんな姿をしていたのでしょう。それは今時女子には決してたちうちできなそうな、ヘビーな食べ物。今のように2種類のフィリングが入っていることはなく、代わりにカランツ入りのスエット生地(ちょうどスポテッドディックのような生地)で、豚肉などをぐるりと包んでひたすら長時間茹でる大きな長い塊。お肉は各家庭の懐具合により、上質の豚肉を入れることが出来る人もいれば、安いベーコンやガモン、サンデーローストの残り物だったり、時にはじゃが芋や玉ねぎが入ったり。農夫たちがこれを1本お弁当に持っていったそうなのですが、丸一日分の重労働のエネルギーを満たしていたわけですから相当なボリュームだったことでしょう。
ここで思い出すのは「コーニッシュパスティ」。あちらは炭鉱夫のお弁当で、やはりもとはメインコースのお肉と、デザートとがひとつのペストリーの中で完結していたという点でも似ています。実はこういった労働者のためのランチ用としてできた、似たようなペストリー類はイギリス各地に多数存在しています。ハムやベーコン、ランカシャーチーズなどをフィリングに入れるランカシャーの「Lancashire foots(あるいはCollier’s foots)」、バッキンガムシャーの「Buckinghamshire bacon badger」badger=アナグマは入っていませんよ(笑)、レスターシャーの「Leicester Quron bacon roll」などなど。どれもひとつでお腹がいっぱいになるヘビーなペストリーたち。仲間は沢山いますが、これらとベドフォードシャークランガーがちょっと違うのは、男性が外に働きに出るときに持っていくという用途のほかに、もうひとつ違う用途があった点。それはこのクランガーがどうして生まれたのか、にも関連しています。18世紀より、BedfordshireにあるLutonでは麦わら帽子の生産が非常に盛んでした。そしてこの当時にしては珍しく、ルートンでは女性のほとんどがその働き手として仕事に従事、夕飯の準備をする暇もありません。そこで朝にクランガーを作ってお鍋に入れ、1日コトコト茹でておけば、夕方帰宅してすぐに皆で温かい食事が採れるという、そんな生活の知恵からこのクランガーが生まれたのだとも言われています。そしてルートンでは女性も幼い子供たちもみな、麦わら帽子産業で賃金を得ていたため、怠け者の男性が大量発生したとか。。。髪結いの亭主ならぬ麦わら編みの亭主、う~ん、妻子の稼いだお金で暮らそうとはクランガーを食べる資格はありませんね(^^;)

食べ始める側を間違えないように上にいれるスリットで目印をつけておきます☆

食べ始める側を間違えないように上にいれるスリットで目印をつけておきます☆

ちなみにこのClanger という名の語源ですが、これには諸説あります。Northamptonshireの方言でclag 「がつがつ食べる」という意味からきているとか、茹でたときの生地が Claggy「べとべとねっちりした感じ」がするからとか、あまりに大きくがっしりしているので、落としたときにClanger 「ガン!と音がする」からだとか、要はあまりはっきりしていないというのが実情。Clanger には「大失敗・へま」なんて意味もあるのでその辺から来ているかもしれませんしね。

今の食生活に慣れてしまうと、布につつまれ1日中茹でられたどっしり重~いベドフォードシャークランガーにはあまり心惹かれませんが、BedfordやSandy の街を通りがかったら今時クランガーは是非一度食べてみたいもの。ちなみにGunns bakeryにはトラディッショナルの他に、サイダーとセージフレイバーのポークにデザート側はグラニースミスのハニーバターローストや、ビール煮のビーフ+ルバーブ&カスタードなどなどおしゃれな組み合わせも。消えそうだった地方の伝統食、現代人の舌と好奇心にアピールすべく進化をとげて頑張っています。「こんなの本物じゃない」と現代風への変化を嘆く人もいるけれど、消えてしまうよりはずっとまし。流行も文化、生き残った流行が伝統と合わさって、それがまたいつしか伝統と呼ばれ食文化を形作っていくのですから。

 

第107話 Coventry god cake/ God’s kitchel/ Turnover~コベントリーゴッドケーキ/ゴッドキッチェル/ターンオーバー~

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<Coventry god cake / God’s kitchel / Turnover~コベントリーゴッドケーキ/ゴッドキッチェル/ターンオーバー~>

ベイカリーやファストフードのコーナーでよく見かけるおなじみの三角パイ。四角にカットしたパフペストリー(パイ生地)を対角線でパタンとターンオーバーして(折り返して)作るので、その名もTurnover(ターンオーバー)あるいはフィリングがジャムならJam puffs (ジャムパフ)なんて呼ばれ親しまれています(たまに丸から半円形に折り返すパターンもあり)。イギリスではアップルターンオーバーが人気ですが、パイ生地の存在するところなら、フィリングは違えど世界各国いたるところに同じようなものがあるとは思いますが、今日はイギリスの元祖ターンオーバーとも呼べそうな「Coventry god cake(コベントリーゴッドケーキ)」をご紹介。

アップルターンオーバーはイギリスでよく見かける人気のおやつ☆

アップルターンオーバーはイギリスでよく見かける人気のおやつ☆

イングランド中部、Warwickshireにある大きな街Coventry。現在は戦後の近代風の町並みがメインですが、古くはローマ時代まで遡れる歴史ある街で、中心部には馬にまたがる有名なLady Godivaの像がシンボリックに据えられていいます。20世紀にはいってからは自動車産業で名を馳せたコベントリーだけに、観光のもうひとつの目玉としては、立派な交通博物館があります。そこのカフェでも買うことができるのが、キラキラお砂糖のまぶされた三角形のパイ、コベントリーゴッドケーキ。さくさくのパイ生地の中身はミンスミート(ドライフルーツにスパイスやお酒を加えて漬けたもの)。街の名を冠したパイなのだから、さぞや街の名物なのではないかと思いきや、110年営業を続けていた老舗ベイカリーPails and Son が2008年にクローズしてからはこのパイは街からすっかり姿を消していました。それから数年後、この眠っていたゴッドケーキを救い出したのが、Leigh Waiteさん。街のガイドをしていた彼女がたまたま古いレシピを譲り受けたことからはまっていったコベントリーゴッドケーキとは一体どんな物語を持っているのでしょう。

パフペストリーにミルクを塗りお砂糖をまぶして焼き上げます☆

パフペストリーにミルクを塗りお砂糖をまぶして焼き上げます☆

まずはこのケーキの形である三角形、そして表面に入れる3本のスリット、これはキリスト教の三位一体を表しているのだそう。そしてこれは毎日おやつに食べるという類のものではなく、新年あるいはイースターにGodparentsからGodchildにプレゼントするお祝いのお菓子でした(ゴッドペアレンツとは簡単に言うと、両親とは別に定められる宗教面、精神面、金銭面などでも後ろ盾となってくれる大切な人物のこと)。そのため19世紀頃のコベントリーの街中では、シーズンになるとお店だけでなく、路上でも呼び声高らかにゴッドケーキが売られていたそう。ゴッドペアレンツの懐具合でサイズも色々、小さいものは半ペニーから、大きなものになると1ポンドもしたとか。当時の1ポンドは例えばお店の店員さんの仕事なら、1週間分のお給料にも相当したというから、一体どんな立派なゴッドケーキだったのやら。今の時代で言うならイースターにハロッズの大きくてゴージャスなチョコエッグをもらえる子もいれば、はたまたキャドバリーのミニチョコエッグをもらう子もいる、みたいな感じでしょうか。

さくさくパイの中にはスパイスとお酒の効いたミンスミート☆

さくさくパイの中にはスパイスとお酒の効いたミンスミート☆

パイとミンスミートの組み合わせというと、思い出すのがエクルズケーキやコベントリーの南にあるBanburyのバンブリーケーキ。でもこれらの形は丸や楕円。同じ三角形をしているのはSufforkやEssex地方の「God’s Kitchel(ゴッドキッチェル)」というお菓子。こちらはゴッドケーキと起源が一緒と言われているだけあり、姿だけではなく、ゴッドペアレンツからゴッドチャイルドへの贈るためのお菓子というところも一緒。その歴史もやはり古く、場所がら、14世紀のチョーサーのカンタベリー物語、Summoners Tale にも登場しています。
Give us a bushell whete, malte, or rice, A God’s kichel, or a trippe of cheese,”
イギリス南東部のサフォークやエセックス、特にHarwichやAldeburgh の町がこの「キッチェル」で知られていますが、この辺りではKitchelは別名「Catch Alls」としても知られています。と言うのも、Harwich の町では毎年新町長が決まるとセレモニーの後、ギルドホールのバルコニー(窓)から広場にいる子供たちに向かって「Catch a kitchel, if you can!」というかけ声に続いて、キッチェルをばら撒くという風習があるから。新町長の顔見せと共に、神のご加護、幸運が町中にありますようにという意味があるようですが、どこか節分にも似て楽しい風習ですね。ただし、この場合投げられているのはキッチェルといっても、spiced bun(スパイスやドライフルーツ入りのパン)のこともあるよう。そして裸のままぽんぽん外に投げられていた昔と違い、衛生面も気遣う当世らしく、ちゃんとひとつひとつビニール入りな上、ギルドホール前に行けない子供たちにも平等にいきわたるよう、各学校にもキッチェルが配られるのだそうです。子供の頃の楽しい思い出は忘れないもの。特に甘いものが絡むとなったらなおのこと。「僕の育った街にはこんなお菓子が、こんな風習があるんだよ」なんて言える名物お菓子があるのはとってもうらやましい話です☆

 

 

 

 

第108話 Shrewsbury cake(Shrewsbury biscuits)~シュルズベリーケーキ(シュルズベリービスケット)~

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<Shrewsbury cake(Shrewsbury biscuits) シュルズベリーケーキ(シュルズベリービスケット)>

イングランド西部Shropshire の州庁所在地Shrewsbury。イギリスには多くある古いマーケットタウンですが、この町の名を一躍有名にしているのが「シュルズベリーケーキ(またはシュルーズベリービスケットと呼ばれることも)」。その歴史は古く、一説によると1500年代まで遡れるのだとか。その当時のレシピはよく分かっていないのですが、現代、シュルズベリーケーキ(ビスケット)として知られているのは、フリルつきの丸型で直径7~8cm、色白に焼き上げられたさっくりと軽い、バターたっぷりショートブレッドタイプのお菓子。ほのかにレモン風味で、時にはカランツなどのドライフルーツ入り~というものです。

オールドファッションに、キャラウェイシードとシェリー酒入りのシュルズベリーケーキ☆

オールドファッションに、キャラウェイシードとシェリー酒入りのシュルズベリーケーキ☆

よく耳にするお菓子ではあるので、シュルズベリーの町に行けば、さぞやこの甘い名物お菓子が溢れているのかと思いきや、さにあらず。このシュルズベリーケーキが一世を風靡したのは相当昔の話。劇作家William Congreve(1670-1729) が「The Way of The Worlds (世の習い)」の中で ”you may as short as a Shrewsbury cake (あなたはまるでシュルズベリーケーキのように気が短い)“という表現を使ったのは1700年。シュルズベリーケーキの生みの親と言われている伝説の(実在の人物かどうか定かでないので)James Palin がシュルズベリーの町のCastle Street に店を構えたと言われているのが1760年。彼が生みの親だとすると、もっと以前のレシピ本にも登場しているシュルズベリーケーキは??とは突っ込まないことにして、、、。19世紀に入ってからもシュロプシャーに限らず、全国区のレシピ本にちょいちょい顔を出しているので、当時からイギリス中で知られたお菓子だったことは間違いありません。その後も、このMr.Palinのオリジナルレシピを継承したと言うシュルズベリーのThomas Plimmer&Sons がシュルズベリーケーキを販売していたのですが、世界大戦が始まってからは、材料不足から製造は中止、シュルズベリーケーキの火は消えてしまいます。それでもここ数年でちらほらまた市販のシュルズベリーケーキを見かけるようになってきました。それが先に述べた今どきのレモン風味のショートブレッドタイプのもの。これはこれでおいしいのですが、17世紀や18世紀のレシピと見比べてみると、かなり今のものと違いがあることが分かります。

ローズウォーターとナツメグ入りの19世紀のレシピで焼いたシュルズベリーケーキ☆

ローズウォーターとナツメグ入りの19世紀のレシピで焼いたシュルズベリーケーキ☆

例えば、Hannah Woolley の「The Queen-like Closet or Rich Cabinet(1672)」のシュルズベリーケーキのレシピを見てみると~4ポンドの小麦粉に2ポンドのパター、1.5ポンドのお砂糖に、卵4つ、シナモンとローズウオーターで少々で風味付けした生地を36個の薄い丸型(thin round cake)に整えて焼きましょうというもの。この分量からいくと、薄いといいつつもそれはビスケットと言うよりはケーキの厚さ。Hannah Glasse の「The Art of Cookery Made Plain and Easy(1747)」に登場するシュルズベリーケーキにいたっては2パウンドの小麦粉に1パウンドの砂糖、4つの卵にスプーン4杯のクリームとスプーン2杯のローズウォーターという生地。バターは入っていません。これらを混ぜ合わせて延ばし、薄いケーキ状にして(roll them into thin Cakes)オーブンで焼きましょう~というもの。こちらは出来上がり数が書いていないので、はて、どのくらいの薄さにすればいいのか、どんな形のケーキにすればいいのか分かりませんが、、。いずれ、現代の明らかにビスケット状のシュルズベリーケーキと違い、昔のものはビスケットのような、ケーキのような、そのどちらとも言えそうなお菓子。どうりで、両方の名で呼ばれてきたはず。そして昔の生地に加えるフレイバーの主流はレモンではなく、ローズウォーター。そしてシナモンやナツメグ、キャラウェイと言ったスパイス類。時にはサック(マデイラ酒のような酒精強化ワイン)やシェリーが加えられることも。

ローズウォーター、キャラウェイシードにサック、どの風味もそれぞれ美味しそう☆

ローズウォーター、キャラウェイシードにサック、どの風味もそれぞれ美味しそう☆

懇切丁寧にプロセスごとの写真があるような日本のレシピ本と違い、全てがざっくりな昔のイギリスレシピ本。想像は膨らみますが、作ってみても果たしてこれが正解なのか否か分からないので、答えのないクロスワードを解いた後のような、ちょっとしたモヤモヤ感が残るものもよくあります。まぁ最終的にそれでおいしいティータイムがが出来ればそんなモヤモヤもすぐに消えてしまうのですが(笑)
今日はモヤモヤなし、作ってすっきり、食べてさっくり、現代のビスケット風シュルズベリーケーキをご紹介します。

shrewsburycake2

<シュルズベリービスケット>

① 柔らかくした無塩バター100gにグラニュー糖100gを加えて白っぽくなるまでよくすり混ぜます。卵1個も少しずつ加えながらさらによく混ぜ合わせます。
② すりおろしたレモンの皮1個分と薄力粉225g、(好みでカランツ50g)も加えて混ぜ合わせ、ひとかたまりの生地にします。ラップに包んで冷蔵庫で30分ほど冷やしましょう。
③ 冷えた生地をめん棒で5mmほどの厚さに伸ばし、直径6~7cmくらいのフリフリの丸型で生地を抜き、180℃に予熱したオーブンで12分ほど、周囲が軽く色づく程度に焼けたら出来上がり☆

※ レモンの代わりに、キャラウェイシードやナツメグ、ちょっぴりローズウォーターなどを加えてみて、在りし日の香り漂うシュルズベリービスケットを楽しんでみるのもいいかもしれません☆

 

 


第109話 College pudding/ New College pudding ~カレッジプディング/ニューカレッジプディング~

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<College pudding / New College pudding  カレッジプディング/ニューカレッジプディング>

イギリスプディングに興味を持った人が必ずぶつかる「Suet(スエット)」なる謎の材料。日本人にとっては馴染みのないこの食品は牛の腎臓の周りについているケンネ脂のこと。他の部位の脂に比べて良質で香りが少なく、融点も高いので扱いやすく、昔からこれを細かく刻んでパン粉や小麦粉に混ぜてペストリーやケーキのようなものを作ったりと、今のバターのように広く活用されてきました。もちろん当時からバターもありましたが、牛乳から加工しなくてはならないバターより、スエットはずっと安価で手軽な油脂、庶民の味方というわけです。今でこそ、バターや植物性のオイルなどが主流になり、イギリスでもスエットやスエットを使った食品を目にすることは少なくなってしまいましたが、それでもイギリスの大切な食文化のひとつ。スエット抜きにイギリスプディングを語ることは出来ません。このスエットを使ったプディングが最初にイギリスの文献に登場するのが17世紀。ちょうどプディングクロスが発明された時代。プディングクロスとはプディングベイスン(プディングを蒸すための陶器の器)が生まれる前に使われていた、プディングを蒸す(茹でる)ための布のこと。昔は、水で湿らせ粉をふるった布でプディングの生地を包んで巾着のように縛り、お湯を張った鍋にどぼんと吊るして茹でていたのです。それ以前は動物の内臓や腸に詰めて加熱していたのですから、プディングクロスの発明はイギリスプディング史上における大革命。それとスエットの登場とあいまって、イギリスプディングは飛躍的に発展を遂げます。それまで一緒くたに調理されていた、塩味のお肉やお魚などと、フルーツや砂糖を使った甘いものとの区分けがされるようになり、現代見るようなさまざまな甘いプディングが作られるようになります。

プディングベイスンで蒸すタイプのカレッジプディング☆

プディングベイスンで蒸すタイプのカレッジプディング☆

さて、ここでようやく今日のお題、「College pudding(あるいはNew college pudding)」の登場です。これはイギリスのレシピ本に残る、最も古いスエットプディングのひとつとされているもので、オックスフォードやケンブリッジのカレッジホールで学生たちにサーブされていたためこの名がついたといわれています。メインの材料はパン粉にスエット、お砂糖にカランツ、卵に牛乳。バリエーションとして、そこに小麦粉が入るもの、シトラスピールが入るもの、風味付けのナツメグなどのスパイス、シェリーやサックといったお酒が加わるものなどがありますが、どれもそう大きくは変わりません。ただし、なぜかその姿かたちは文献によってさまざま。というのも調理法がいくつかあるから。前述のプディングクロスで包んで茹でるというもの、卵くらいのサイズにまとめてバターで揚げたり、あるいは軽く脂をひいてフライパンで焼くタイプのものも。少し後になるとプディングベイスンに入れて蒸すタイプも現れます。

丸めてフライパンで焼くタイプのカレッジプディング☆

丸めてフライパンで焼くタイプのカレッジプディング☆

いくつか例を見てみると~
Eliza Smithの 「The Compleat Housewife (1737)」に登場するNew College puddings は~古くなったパンを削ったもの、刻んだスエット、ナツメグ、塩、カランツ、卵と、少量のサック(酒精強化ワイン)、お砂糖 を混ぜ合わせて15分ほど置き、それを七面鳥の卵ほどのサイズに丸めてバターを溶かした鍋でこんがりするまで焼きましょう~というもの。
つづいて 有名なBeeton 婦人「Household Management(1861)」のレシピはこんな感じ~

1263 COLLEGE PUDDINGS
Ingredients- 1pint of bread crumbs, 6oz.of finely-chopped suet, 1/4lb. of currants, a few thin slices of candied peel, 3oz.of sugar, 1/4nutmeg, 3 eggs, 4 tablespoonfuls of brandy.
Mode- Put the bread crumbs into a basin; add the suet, currants, candied peel, sugar, and nutmeg, grated, and stir these ingredients until they are thoroughly mixed. Beat up the eggs, moisten the pudding with these and put in the brandy; beat well for a few minutes, then form the mixture into round balls or egg-shaped pieces; fry these in hot butter or lard, letting them stew in it until thoroughly done, and turn them two or three times, till of a fine light brown; drain them on a piece of blotting-paper before the fire; dish and serve with wine sauce.

材料はEliza Smithさんのものとほぼ一緒。パン粉1パイント、細かく刻んだスエット6オンス、カランツ1/4パウンド、砂糖漬けのシトラスピール数スライス、お砂糖3オンス、削ったナツメグ1/4コ分、卵3コ、ブランデー大さじ4。香り付けのブランデーと砂糖漬けのピールが少し加わったくらい。全て混ぜ合わせたら、卵サイズに丸めてバターかラードの中で返しながら、両面こんがり色づくまで揚げ焼きにしてね~という作り方も同じです。

パン粉が入ると小麦粉だけの時より軽い仕上がりに☆

パン粉が入ると小麦粉だけの時より軽い仕上がりに☆

もう少し前のレシピになると、プディングクロスに包んで茹でるタイプ、逆に後のレシピになると、プディングベイスンで蒸すタイプが多いよう。そうそう、New College Pudding のニューカレッジとは新しいカレッジという意味ではなく、1379年創立のオックスフォード大学の歴史あるカレッジのこと。このプディングのお味はご想像どおりシンプルですが、それも飽食の時代に生きる人間にとっての話し。きっと当時のニューカレッジに通う学生さんにとっては人気のプディングだったことは想像に難くありません。頭を使うと糖分も欲しますからね(^^)頭は使わなくとも糖分ばかり欲している人間もここに1名おりますが、、。大学のプディングといえば、以前登場した「Cambridge burnt cream」も思い出すところ、一応同じ時代にあったはずのこのふたつのプディング、一体どちらがより人気だったのでしょう。いつも思うことながら、タイムトリップしてこっそり昔の食堂の様子を覗きに行ってみたい~。

第110話 Apple pie~アップルパイ~

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<Apple pie アップルパイ >

「アップルパイ」、、、あえてイギリス菓子というにはあまりにも名前も構成もシンプルで、存在そのものがワールドワイドすぎるが故に、ここで取り上げるのをなんとなく先延ばしにしてきたお菓子。ですが、りんごと言えばイギリスを代表する果物、そしてパイと言えばイギリスの国民食、当然アップルパイはイギリスのデザートに、お茶のお供に欠かせない存在。やはりこれは誰がなんと言おうとイギリス菓子。フランスにも、ドイツにも美味しいアップルパイはあるし、アメリカには「とってもアメリカ的な」ということを表現するのに「As American as apple pie」なんて言い回しがあったりしますが、イギリスもアップルパイ愛とその歴史の長さではどこにも負けていません~ということを今日はご紹介(^^)

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まずは「アップルパイ」の歴史から。歴史といっても、誰が最初に作り始めたかなんて事までは分からないのですが、少なくとも最初に文献に登場したのは「The Forme of Cury(1381年)」というイギリスの料理本の中とされています。その本の中でFor to make Tartys in Applis~と題されたそれは、りんごやレーズンに加えて、いちじくや洋梨、サフランも入ったもので、当時 cofyn と呼ばれていたタルトケースのようなものに入れて焼くように~と記されています。これに限らず、現代のものとは少々姿は異なるかもしれませんが、15世紀にはアップルパイ(タルト)はイギリスで広く食べられていたよう。一方アップルパイで有名なアメリカではいつ頃から食べられていたのかというと~もともと北アメリカに自生していたのは生食やパイのフィリングにするには適さないクラブアップル。イギリスやヨーロッパ諸国から移民が入り、美味しいりんごを持ち込み栽培し、アップルパイを作ろう~と思い、それがレシピ本に載るまでなんと18世紀末まで待たなくてはなりません。イギリスに比べると大分短いアップルパイの歴史です。

アップルパイに添えるなら温かいカスタード?バニラアイス?

アップルパイに添えるなら温かいカスタード?バニラアイス?

さてそんな歴史はさておき、現代イギリスで食べられているアップルパイとはいかなるものか。日本の表面つやつや、薄いパイの層がきれいに浮いた格子模様のアップルパイとは違います。もちろん格子模様のこともありますが、全面隙間なく蓋をするようにペストリーで覆われていることが多く、生地は、もっぱらショートクラストペストリーと呼ばれる、あまり層のないさっくりしたタイプのもの。艶出し用の杏ジャムやナパージュなどを塗ることは決してなく、せいぜいグラニュー糖がかかっていたりする程度の素朴な外見です。フィリングは作り手により、地方によりさまざま。生のスライスしたりんごをお砂糖と共にパイに詰めて焼く場合もあれば、前もって砂糖を加えて加熱しておいたりんごをフィリングにすることも。使われるりんごの種類もさまざま。2000種を超えるといわれているイギリスのりんご、調理用のブラムリーアップルを好む人もいれば、デザートアップル、イーティングアップルと呼ばれる甘いりんごを使う人もいますし、もちろん、お庭に生えているりんごの木やその地方でよく採れるものを使うことも多いでしょう。他にフィリングに何か加えるとすれば、レモン、あるいはシナモンやナツメグなどのスパイス類。りんごと収穫のシーズンがかぶるブラックベリーを加えることもよくあります。また面白いところではチーズを加えることも。南西部ならチェダーチーズ、イングランド北部のウエンズリーデイルチーズなどがアップルパイに入れるチーズとしては有名です。また、チーズはフィリングに加えるだけではなく、パイクラストにバターと共に練りこんだり、出来上がったパイの脇にチーズの塊を添えてサーブすることも。甘酸っぱいりんごにちょっと塩気のあるチーズ、慣れるとこの組み合わせはなかなかな乙なもの。「An apple pie without the cheese is like a kiss without the squeeze(チーズのないアップルパイなんて、抱擁のないキスのようなものだ)」なんて諺があるくらいですから(笑)。でも、そんなちょっと複雑な味を求める人は別として、大抵の場合アップルパイに添えられるのは温かいカスタードか、生クリーム、もしくはバニラアイス。熱々の焼きたてアップルパイにバニラアイスはそれはもちろん最高ですが、黄色の温かいカスタードの海の中に常温のアップルパイの島が浮かぶお皿もまた至福です。。。。

アップルパイにブラックベリーはイギリス定番の組み合わせ☆

アップルパイにブラックベリーはイギリス定番の組み合わせ☆

さて、セイボリーからデザート系まで、星の数ほどあるイギリスのパイ。2016年のアンケートによると(OnePoll調べ)、全てのパイの中からナンバー1の座を獲得したのがなんとアップルパイ。2位はシェパーズパイ、3位はステーキ&エールパイ、4位がコテージパイで5位がステーキ&キドニーパイ。1位以外は全てセイボリー系が占めている中の王座です。ちなみにスイート系の次席は6位のレモンメレンゲパイ。調査する対象が女性か男性かや、地方によっても大分結果は変わるようなので、いつも同じ結果とは限りませんが、イギリスのアップルパイ人気を示すには充分。ちなみに今年2017年の結果はというと~1位がステーキ&エールパイ、アップルパイは5位でしたが、スイーツ系としてはやはり堂々のトップでした。

ペストリー自体に削ったチーズを加えたり、フィリングの中に加えることも。チーズの種類も様々です☆

ペストリー自体に削ったチーズを加えたり、フィリングの中に加えることも。チーズの種類も様々です☆

こうして広く深く14世紀よりイギリス国民に愛され続けてきたアップルパイですが、他にも美味しいお菓子が沢山あるせいか、これまで表立ってアップルパイがイギリスの国民的人気を誇るお菓子だとアピールされることはあまりありませんでした。が、2015年、イギリスのアップルパイが世界的に認められる出来事がおきます。ブラムリーアップル(イギリスの代表的なクッキングアップル)で作られたアップルパイのフィリングがEUより保護すべき伝統的な産品Traditional specialty guaranteed(TSG:伝統的特産品保護)に指定されたのです。スティルトンチーズや、メルトンモーブレイのポークパイなどと並んで、「Traditional Bramley Apple Pie Filling」という名も、定められた材料と手順で作られなければその名を使うことが出来なくなったというわけです。これがなかなかに細かい規定、使っていいのは規定のサイズのブラムリーアップル、砂糖、水、オプションでブラムリーのピュレとコーンスターチ、レモン果汁のみ。そのカットのサイズや、材料の割合はもちろん、粘度やpHまで決められているという徹底ぶり。これで当分は美味しいアップルパイが食べられそうですね。
あ~ひたすらアップルパイを頭に描きながら綴っていたので、無性にイギリスの素朴なアップルパイが食べたくなってしまいました~なんてわたしは毎度のことですが、いつも 「あ~これ食べてみたいかも」 そう皆さんにも思ってもらえたら嬉しいなと思いながら書いているのでした(^^

 

第111話 Brandy snap ~ブランデースナップ~

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<Brandy snap ブランデースナップ>

クルリと巻かれたうす~い筒状のビスケット。両端から覗くのは白い生クリーム。ところどころ光を透すほどに薄い部分もある生地は、まるでレースのよう。素朴でどっしりというイメージのイギリススイーツの中では珍しく華奢で繊細な作りです。「ブランデースナップ」という名前は聞いたことがあるけれど、実際にお目にかかったことがない?それも無理はない話し。ブランデースナップが一世を風靡したのは数十年前、今ではオールドファッションな、昔懐かしデザートといった存在ですから。それでもよ~く探せばスーパーの棚の端っこのほうには今でもブランデースナップの箱を見つけることはできますし、お菓子のレシピ本にもちらほら、、細々と、でも定番イギリス菓子として生き残っています。多少保存の利く市販品は、一昔前なら家庭の戸棚によく買い置きしてあったお役立ちグッズ。ふいの来客の際もホイップしたクリームを詰めるだけで一瞬にしてお手軽デザートが完成してしまうし、そのままアイスクリームに添えたり、リキュール入りのドリンクと共に出すだけでちょっとおもてなし風に(やはりレトロ感は否めませんが… )。昨今この筒状のものより見かけることが多いのは、「ブランデースナップバスケット」と呼ばれるタイプのもの。こちらは小さな器型をしているので、もっぱらアイスクリームを盛るのに使われます。brandysnap1

クリームを詰めるにしても、アイスを盛るにしても、いずれこのお菓子の魅力はソフトなクリームに対しての、パリッカシャッと割れるその食感のコントラスト。日本やフランスで見かけるラングドシャやチュイールといった、薄焼きクッキー的な生地とは違い、このブランデースナップは飴とビスケットの中間のような歯ごたえ。とても湿気やすいので出来立てが一番です。あまり保存が利かないため、手づくり派より、市販品を買う人が多いのもうなづけます。それに理由はもうひとつ。工程自体は簡単なのですが、こつを掴むまでは少々トリッキーなその作り方。生地はゴールデンシロップとバターとお砂糖を煮溶かし、そこに小麦粉を入れたもの。このペースト状の生地をほんのひとさじずつ天板に落としてオーブンに入れてあげます。するとあっという間に薄く広がり泡がぶくぶく。これがレースのような模様の正体。辺りに香ばしい香りが漂い、濃い焼き色が付いたら、さぁもう焼き上がり。相変わらずドロドロの状態ですが、ご心配なく。1分ほど待つと、なんとかパレットナイフで持ち上げられる程度のペロンとしたシート状に。さぁここからが大忙し。ちょっと熱いのを我慢して、木のスプーンの柄にくるり巻いてあげると、あっという間に生地は冷えて固まり、シガレット状のブランデースナップが出来るというわけです。

いい焦げ色がつくまでオーブンとにらめっこ☆

いい焦げ色がつくまでオーブンとにらめっこ☆

ところで、ブランデースナップという名前だけど、ブランデーはどこに入るの?と思われていることでしょう。はい、生地に少量入れることもあります。でも入らないことも。生地にどうしても欠かせないのはジンジャーのみ、その名前に引きずられて、「ブランデーを風味付けに入れましょうか、あ、でもレモン果汁でもいいですよ」そんな程度なのです。一説によると、名前の「ブランデー」という語はお酒のブランデーではなく、branded (=焦がされた)からきているという話しも。それに「スナップ」のほうも、わたしはあのパリンと割れる食感からだろう疑わずに思い込んでいたのですが~Laura Masonoの「The Taste of Britain」によると~実は17世紀初頭まではsnap という語はsnack(軽食)を意味する言葉としても使われていたそうで(今でも北部英語ではその意味で使われることもあるそう)、そちらに由来しているのだとか。

生地がまだ熱いうちに木のスプーンに巻きつけて形作ります☆

生地がまだ熱いうちに木のスプーンに巻きつけて形作ります☆

ブランデースナップの誕生は明確には分かっていないのですが、一般に食べられ始めたのは1800年代初頭と言われています。その頃は別名 Jumbles、Fairings とも呼ばれており、コーニッシュフェアリング然り、毎年のお祭りの際に屋台で売られるジンジャーブレッドの一種で、みんなが食べながらそぞろ歩いたり、お土産にと求める品だったそうです。そして、当時はくるりと巻かれたスタイルではなく、焼いたままのフラットな形。記録に残る中ではHerefordshire のフェア(お祭り)で売られていたという記述がもっとも古いと言われています。今でもStratford mop fairや Nottingham goose fairはじめ各地のフェアで見かけることもあるのだそう。中でも規模が大きなことで有名なHull Fair では1850年創業のWright & Co 社のブラデースナップ屋台が今でも欠かせない名物です。

クリームを詰めたり、アイスを盛ったら、パリパリ感がなくなる前に急いで食べましょう~☆

クリームを詰めたり、アイスを盛ったら、パリパリ感がなくなる前に急いで食べましょう~☆

イギリスでの歴史は1800年代より前は分かっていませんが、さらに遡ると、フランスのgaufres (ゴーフル)やwafers(ウエファー)と呼ばれるものに祖があるというブランデースナップ。それらももともとは宗教関連の行事やお祭りの際にヨーロッパ各地で食べられてきたもの、イギリスでもブランデースナップが、日々口にするものではなく、お祭りごとやお祝い事の際に食べるものだったことからも関連が伺えます。
さぁ、今日はお祭りでもないし、来客の予定もありませんが、ブランデースナップを作ってしまったので、湿気てしまう前に急いでいただいてしまうことにします(^^)。
皆さんも一息、ティータイムにしてはいかがですか?

 

第112話 Porter cake / Guinness cake~ポーターケーキ/ ギネスケーキ~

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<Porter cake / Guinness cake ポーターケーキ/ ギネスケーキ >

イギリスの国民飲料ビール。ワインより、ジンより、ウイスキーより、より身近で親しみやすいアルコール飲料として、イギリス食文化になくてはならないその存在。紀元前よりイギリスで愛されているビール(エール)はもともと麦芽を消化吸収しやすい状態にした体に良い飲み物として、女性や子供たちも飲んでいたもの。家庭で作られるそれはアルコール度数も低く、水代わりの安全な飲み物で、15世紀以前はホップも入っておらず、今のビールとは味、ポジションとも大分違うものだったようです。その後ピューリタンによる飲酒抑制や、悪名高いジンの大流行などの逆風に耐え、昨今のワインブームに圧されつつも、ビールは今なおイギリスにとって必要不可欠な飲み物であり続けています。なんでもかのエリザベス一世も、朝から1リットルのエールを飲んでいたとか。。。

 

ポーターとドライフルーツをお鍋に入れて~☆

ポーターとドライフルーツをお鍋に入れて~☆

毎日水の代わりに飲むくらいですから、当然エールは日々の料理にも使われます。今でもパブ料理の定番といえば、牛肉のエール煮をパイで包んだ「ビーフ&エールパイ」ははずせませんし、イギリス料理の代名詞ともいえる「フィッシュ&チップス」だって、衣にビールを使うビアバッターはさくさくで危険な美味しさ。ということはビール(エール)を使うお菓子だってきっとあるはず、と思われたあなた、そのとおり!ブランデーを塗りつつ熟成させるクリスマスケーキのお話しは以前しましたが、今日はビールを使ったお菓子のご紹介です。

焼き立てより数日我慢すればより美味しく☆

焼き立てより数日我慢すればより美味しく☆

下面発酵で軽い味わいのラガー中心の日本のビールと違い、イギリスでは上面発酵で色も味わいも濃いエールが中心。その中でも濃厚で苦味の強いPorter(ポーター)は1722年、ロンドンで初めて販売され急速に広まります。ロンドンのポーター(荷物運び人)の間で特に人気だったことからこの名がついたとか。「Porter cake(ポーターケーキ)」はその名のとおり、このポーターを使って作るケーキ。やはりクリスマスケーキ然り、ドライフルーツもたっぷり入れて、焼きあがってから数日寝かせることで熟成がすすみ、より美味しくなるタイプのケーキです。作り方は簡単。お鍋にバターとドライフルーツ、お砂糖にポーターを入れて火にかけます。全てが溶け合ったら、少々冷まし、そこに卵や小麦粉などを入れて混ぜるだけ。型に入れたら低温のオーブンでじっくりじっくり焼いてあげれば完成.。あとは時がケーキに「美味しくな~れ」と魔法をかけてくれますから。たっぷり加えるポーターの苦味が味に奥行きを与え、ナチュラルな保存性&熟成効果をもたらしてくれるよく出来たケーキです。

真っ黒なギネスがたっぷり☆果たしてどんなお味になるのやら、、

真っ黒なギネスがたっぷり☆果たしてどんなお味になるのやら、、

ロンドンで生まれ人気を博したポーターですが、これを真似して、イギリスのほかの地域でも多くのメーカーがポーターを作り始めます。ヴィクトリア時代初期、味やアルコール強めのポーターは「Extra porter」、「Double porter」あるいは「Stout porter」などと呼ばれていましたが、のちにそれが縮められ単にStout (スタウト)と呼ばれるようになります。このスタウトの代名詞的存在がアイルランドGuinness 社のギネス。褐色を通り越し、ほぼ真っ黒なスタウトにクリーミーな泡がのったそれは日本でもすっかりおなじみですね。このギネスを使ったケーキも実はイギリスではよく見かけるケーキのひとつ。大抵はスポンジ部分にココアを加え、クリームチーズのフロスティングというのが定番です。普通のスポンジ状のケーキから考えると、かなりたっぷりの液体(ギネス)を加えるのですが、その炭酸の持つ効果もあるのか重くならず、ふんわりしっとり美味しいケーキに焼きあがります。いわれればなるほど、ほのかに残る苦味はココアからだけのものではありません。大人っぽいチョコレートケーキとして、人気なのもうなずけます。ポーターケーキのようにトラディッショナルなイギリスケーキというよりは、カフェなどで好まれる、今どきケーキの顔はしていますが、飽きのこない魅力があるギネスケーキ。

クリームチーズのフロスティングがまるでギネスの泡のよう☆

クリームチーズのフロスティングがまるでギネスの泡のよう☆

わたしも時折思い出したように作りますが、一瓶あけると中途半端に残るギネス。焼き上がりを待ちながら飲んでしまおうか、あとでしっかりデコレーションまで終えたケーキと一緒に飲むのもありかも、なんてどうでもいい悩ましい問題にいつも葛藤するのでした(笑)。
皆さんもイギリスのカフェでこのケーキに遭遇したら、「え~あの黒いビールの入ったケーキでしょ、なんか苦そう~」なんて思わずどうぞ一度試してみてください。きっとお気に召されると思いますよ☆

 

 

 

 

 

第113話 Sugar mice / Coconut ice ~シュガーマイス/ココナッツアイス~

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<Sugar mice/Coconut ice シュガーマイス/ココナッツアイス>

 

見かけからの勝手な思い込みや先入観でこうと決めつけ、これまで手を出さないできた食べ物は誰しもひとつや二つあるもの。それが外国のものならなおのこと。わたしの場合、お菓子なのに、何故かず~っと勝手にキャンドルだと思い素通りしていたものがあります。それが「Sugar mice(シュガーマイス)」。

何故かいつも同じ顔のシュガーマイスたち☆

何故かいつも同じ顔のシュガーマイスたち☆

白かピンクのネズミの形をしたそれは、まるでろうそくのような半透明のボディに、まさにろうそくの芯のような糸のしっぽがちょろり。ショーケースの中でよくケーキの脇にちょこんと置いてあるものですから、そう思い込んだのでしょう。考えてみれば、後ろについているネズミのしっぽに火をつけたら、火は下に燃え広がってきっとテーブルは火事、ケーキならどろどろになってしまうでしょうに、わたしの中では「ピンクや白のねずみ=キャンドル」。どこのケーキ屋さんでも置いてあったので、これはもうイギリスではケーキにねずみのろうそくを置くものなのだと。バースデイケーキの上に放射線状に並べられたネズミ型のろうそくに、ちろちろ炎が灯されているのを想像していたのですから、今思えば笑ってしまいます(笑)。そんな誤解が解けたのは、ある日駄菓子屋さんで他のキャンディーたちと並んで瓶に入れられたシュガーマイスを見たとき。こんな風にお菓子と並べたら間違って食べちゃいそう、、、いや、これってもしかしてお菓子?!そうと気づけば視野は広がり、シュガーマイスと並んでピンクや白の「チョコレートマイス」も目に入ってきます。このネズミさんがろうそくじゃないと知るまで、イギリスに暮らして数年かかりました(笑)。なぜにこのお菓子が猫でもウサギでもなくネズミ型なのかは謎ですが、シュガーマイスはイギリス人なら誰もが知っている定番駄菓子。今ではノスタルジックなお菓子というジャンルに入ってしまいますが、ちょっとクラシックなお店に行けば今でも出会えますし、ひと昔前はクリスマスのお菓子としても人気で、子供たちと手作りする家庭も多かったようです。本来はお砂糖を煮詰めフォンダンにして作るシュガーマイスですが、家庭で手作りするときは簡単バージョン。粉砂糖に卵白を入れてペースト状にするだけ。粘土遊び感覚で楽しく作れるので、むしろ子供たちのほうが上手に作れるかも。

チョコレートマイス~こちらには糸のしっぽはつきません☆

チョコレートマイス~こちらには糸のしっぽはつきません☆

今でこそカラフルなシュガーマイスを見かけますが、基本はピンクと白。今日は他にもいくつかピンクと白のなつかし系お菓子をご紹介したいと思います。次に頭に浮かぶのは「Coconut Ice(ココナッツアイス)」。アイスといってもあの冷たいアイスクリームではありません。それはピンクと白の2層になったココナッツの甘~~い塊。これまたかつてはシュガーマイスやファッジ、ペパーミントクリームなどと並んでクリスマスのエディブルギフトとしてよく家庭で作られていたもので、市販品もまだ健在。世代も生まれ育った国も違うのにノスタルジーを感じさせるこのお菓子、どこかに甘さ以上のパワーが潜んでいるのかも。こちらも作り方はいたって簡単。大量のコンデンスミルクに大量の粉砂糖、そして大量のココナッツを混ぜるだけ。半分に色を付けたら、四角い箱にぎゅぎゅっと押し固め、数時間置いたら、あとは好きなサイズにカットして完成です☆お味の程はきっとご想像どおり(笑)

アイスはアイスでも溶けないココナッツアイスです☆

アイスはアイスでも溶けないココナッツアイスです☆

おまけにもうひとつ、ピンクと白の駄菓子でどうもいつも目の端に入るものの買う気になれないのが「milk teeth(ミルクティース)」と「Pink shrimps(ピンクシュリンプ)」。妙にリアルな入れ歯の形の前者はストロベリーとミルクフレイバーのお菓子。いくら美味しくても、この形は(^^;)。そしてどうしてエビ?エビ味のキャンディーなの??と恐ろしくて手を出せなかったこれまた駄菓子屋さん大定番のピンクシュリンプ。そしてなお不思議なことに「Shrimps and bananas」として、よくバナナ型のキャンディーと詰めあわされて売られています。でもご安心を、エビフレイバーではなくラズベリー味のソフトキャンディーです。それにしても何故にエビ?何故バナナと?

可愛いはずのピンクなのですが、形がね、、、(^^;

可愛いはずのピンクなのですが、形がね、、、(^^;

 

イギリスのノスタルジックwhite & pink sweets、これまで目に入っていなかった方も、きっと次回は目に付くはず。
童心に返って一度トライしてみるのも面白いかもしれません。でもくれぐれも、シュガーマイスのしっぽに火はつけないで下さいね☆

 

 

 

 

 

 

 

 


 

第114話 Knickerbocker glory/ 99 Flake~ニッカボッカグローリー/ナインティナインフレイク~

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<Knickerbocker glory / 99 Flake  ニッカボッカグローリー / ナインティナインフレイク>

愛嬌たっぷりのイギリス菓子、妙ちきりんな名前のものは数あれど、響きが愉快で個人的に気に入っているのが、ジャムローリーポーリーに、アップルダッピー、そして今日の主役 「Knickerbocker glory(ニッカボッカグローリー)」。「ニッカボッカ? ニッカボッカってあれでしょ、ゴルフをする時やとびの職人さんが履く膝の下辺りで裾がきゅっと締まったふんわりズボン」。そう、イギリスでも「ニッカボッカーズ」と言えば、そのタイプのズボンのことを指すのですが、それにグローリーが付くと意味はまったく変わって「パフェ」のことを指します。背の高いガラスの器にたっぷりアイスクリームとフルーツソース、チョコレートやホイップクリームなどを盛りつけたそれは、日本のサンデーやパフェと呼ばれるものとほぼ一緒。もちろんイギリスでも「サンデー」や「パフェ」と言っても通じなくはないけれど、「Sandae(サンデー)」はアメリカ発祥の単語で、「Parfait(パフェ)」はフランス、しかもこちらはイギリスでは「Chicken liver parfait(チキンレーバーパルフェ)」などのようによりなめらかにしたお肉のパテを意味することもあるので、少々紛らわしいことも。そんなこんなでトラディッショナルなイギリスパフェを表す言葉は「ニッカボッカグローリー」なのです。kinickerbocker 1

それにしても、アイスクリームのデザートに一体どうしてズボンの名がついたのか?それが実は謎。Knickerboker自体はもともと「History of New York(1809)」という本の著者のペンネーム、 Herman Knickerbocker に由来していると言われています。そして後にニューヨークに落ち着いたオランダからの移民、延いては彼らが当時よくはいていた裾すぼまりのズボンがニッカボッカグローリーと呼ばれるようになったのが始まりだとか。でもそれはニューヨークでのお話し、イギリスのアイスクリームとの関係性は見えてきません。ひとつ言われているのは、1920年代、Lyon’s bakeryが経営していたカフェが洋服の名前をつけたアイスクリームをいろいろ提供しており~例えば「Plus four(ひざ下4インチの丈のズボンのこと)」、「Charlie Chaplin Waistcoat(チャップリンのベスト)」といった具合~ニッカボッカグローリーはその中のひとつだった、という説。他にも諸説あるのですが、どれも決定打に欠けるため、結局は謎、ということに落ち着いているようです。いずれ登場したのは1920年代、その後子供たちの憧れのデザートとして君臨、今は子供たちだけではなく、そのレトロ感を逆手に在りし日を懐かしむ大人たちにもアピールし、一定の地位を築いています。

大人も子供もワクワクしちゃいますよね☆

大人も子供もワクワクしちゃいますよね☆

さて、今日もうひとつご紹介したいイギリス懐かし系コールドスイーツが、ニッカボッカグローリーとも共通項の多い、「99」。正確には「99 Flake ice cream (ナインティナインフレイクアイスクリーム)」ですが、一般的には単に「ナインティナイン」と呼ばれているもの。それだけでは何のことやらサッパリですが、要は日本で言うところのソフトクリーム。そのソフトクリームにキャドバリー(イギリスのチョコレートメーカー)の99フレイクというチョコバーを刺したもののことなのです。イギリスの公園や大きなスーパーなどで今もよく見かけるソフトクリーム&アイスキャンディーの移動販売カー。99アイスクリームはその主力商品。

ハラハラのフレイクはソフトクリームとの相性抜群なのです☆

ハラハラのフレイクはソフトクリームとの相性抜群なのです☆

1920年発売開始のキャドバリーの人気商品のひとつ「Flake」。紙のように薄いチョコレートの層が何層にも折り重なったチョコバーなのですが、ある時これを短くカットしてソフトクリームにトッピングするのが巷で流行します。それでははじめからソフトクリーム用に短いものを売りましょう~と1930年より販売されたのが、「99 Flake」。さぁまたここでニッカボッカグローリーと同じ疑問が浮かびます。何故に99、その名前はいづこから?これが共通項が多いといった理由。「アイスクリーム(ソフトクリーム)」、「名前だけからはそれが一体なんなのか想像がつかない」、「生まれ年代がほぼ同じ」、そして「名前の由来が謎」。そう、キャドバリーという大手メーカーの商品名にもかかわらず名前の由来が謎なのです。今回は、子供たちの間で、また大人たちの間で長い間まことしやかにトリビア的に語られたきた諸説が実に多種多様で面白いのでいくつかここに挙げてみます(^^
●  99フレイクの長さが99mmだから(発売当時はインペリアル法なので ×)
●  99アイスクリームの値段が99ペンスだったから (当時はもっと安かったので ×)
●  99フレイクの層が99層あるから
●  フレイクの断面を見ると9の数字が重なったように見えるから
●  イタリアの王様側近の精鋭部隊が99人で構成されていたので、そこから優れたものを意味して「99」と名付けた(当時イギリスにはイタリアのアイス職人が多くいたため)
●  Askeys(アイスクリーム用のコーン&ウエファーメーカー)の99アイスクリーム用のコーンの品番が99だったから
etc…

などと諸説流れる中、ある日スコットランドからこんな声が上がります。エジンバラのアイスクリームメーカー Rudi Arcari さん、彼女のおじいさんStephenさんが1920年代フレイクを半分に折ってソフトクリームにトッピングして売る事を考案、その商品をお店の住所 99 Portobello High St. からとって「99」と名付けます~そして当時店にフレイクを卸していたキャドバリーが短いフレイク を売ることを思いつき、それを「99」と名付けたというのです。一番ありそうな話しではあるのですが、この説も証拠に欠けるらしく、今も、キャドバリー、OEDともに、名前の由来はunknown としているよう。100年も前の話ですからそうクリアな答えを見つけるのはもう難しいのかもしれません。

そうそう、ちなみにソフトクリームに99フレイクを2本刺したものはその姿から通称「Bunny’s ear バニーズイアー(ウサギの耳)」。そして、赤いラズベリーソースをたらりとかけるトッピングは 「Monkey’s bloodモンキーズブラッド(猿の血)」と呼ばれていたとか~いやはやこれまたニッカボッカグローリーも、99をも吹き飛ばすなかなか強烈なネーミングです。小さな女の子がコインを握りしめながら
「バニーズイアのモンキーズブラッドで!」って、、、(^^;)

第115話 Malt loaf ~モルトローフ~

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<Malt loaf モルトローフ>

イギリスのスーパーのパン売り場、横を見ると甘いおやつパンやケーキなどと並んで必ず置いてあるのが、Soreen のモルトローフ。鮮やかな黄色の袋に真っ赤なSoreen の文字はイギリス人なら誰もが見覚えのあるアイコニックな存在。袋を開けると漂う香ばしいような、仄かに甘いような、ちょっとひなびたような懐かしい匂い。そうおばあちゃんのおうちの食品棚の匂いみたい(笑)。そして眩しい黄色のパッケージから登場するのは対照的に真っ黒な乾いたれんがのような物体。おおよそ食欲をそそる見た目とは言えませんが、初めて食べる人はきっと驚くはず、カットした時のそのナイフに張り付く粘りといおうか、ぎゅ~っとした感触に。このしっとりとも違うぎゅ~っと感がモルトローフの一番の特徴。前にご紹介したスティッキーなジンジャーブレッドをもはるかに超える独特のモイスト感。「Squidgy」という単語はモルトローフを表現するためにあるのではないかと思うほど、ぴったりとくる、まさに「スクイージー」としか言いようのない食感なのです。

malt loaf1

ただ柔らかいとも違う、しっとりとも、ねっちりとも違うそのスクイージーさとモルトの健康によさそうなイメージから、Soreen のキャッチフレーズは「Deliciously Squidgy Energy」。そのパッケージをよく眺めてみると、「Squidgy enough for you ?」「The secret’s in the squidge」「More squidgy power!」 などなどスクイージーの目白押し(笑)。この独特の食感の素は大麦から作られるモルトエクストラクト。麦芽の煮汁を煮詰めて濃縮したビールの素にもなる水飴状のもので、穀物の香りのする優しい甘さです。これをたっぷり加えて作るのであの独特のむぎゅっと感がでるのですね。ローフとは名前がついていますが、パンと言うよりはケーキ。朝食で食べる人もいるかもしれませんが、午後のお茶の時間にスライスしてたっぷりのバターを塗って紅茶と食べるのが一番。時には軽くトーストし、バターとジャムを塗ってもいいしチーズをのせるのもあり。そう、見た目とテクスチャーから想像するより、実はそれほど甘くないのです。ジンジャーブレッドのしっとり感はブラックトリークル(甘~い糖蜜)からきますが、こちらは軽く甘いモルトエクストラクトからなので。

黄色と黒の対比が鮮やかです(笑)

黄色と黒の対比が目に鮮やかです(笑)

今では一週間に100万個も売り上げるというSoreenのモルトローフ(オリジナルバージョン以外も含む)ですが、はじまりはマンチェスターのJohn Sorensenさんの営む職人4人の小さなベイカリー。持ち主は大手メーカーに移りましたが、Soreenのブランドは健在、1938年にJohn氏が奥さんのために生み出したというしっとりとしたオリジナルのモルトローフのレシピは今もトップシークレットです。まもなく80歳を迎えようというこのオリジナルのものに加え、近頃はスライスバージョンや、すでにバターが塗られているバージョン、ランチパックに入れやすいようにとバー状にして個別包装されたものなど種類豊富。学校に通う子供たちから、健康に気遣う若い女性、スポーツ後の手軽なエネルギー補給にもと、多方面にアピールして人気を取り戻しつつあります。確かにモルトは栄養豊富ですし、モルトローフ自体はローファット、ずっしりかなり腹持ちもいいので、ヘルシーと言えばヘルシー?

手作りしても美味しくできます☆

手作りしても美味しくできます☆

気軽にSoreen が買えない日本では仕方ないので我が家は手作り。モルトを加える以外は実はウエールズのバラブリスと 実は材料も作り方も結構似た感じで簡単なのです。もちろんイギリスにも少数ながら手作り派もいますよ。ホームメイドはSoreenのものとは違い、表面もしっとりするタイプになりますが、スクイージー感は一緒。この食感を試してみたい方は一度お試しあれ。

  1. モルトエクストラクト180g、ブラックトリーリル(モラセス)大さじ2、ブラウンシュガー70g、レーズンとサルタナ合わせて200gをボールに入れます。熱い紅茶150cc をその中に注いだらひと混ぜし、冷めるまで30~60分ほど置いておきます。
  2. ①のボールに卵2個を混ぜます。薄力粉250g+ベーキングパウダー小さじ1+重曹小さじ半分を合わせてふるい入れてムラなく混ぜたら生地は完成。
  3. 紙を敷いたローフ型に流し入れ、160℃のオーブンで1時間ほど、もしくは竹串をさして、何もついて来なくなるまでじっくり焼きます。粗熱が取れたら型からはずし、ラップなどでしっかり包み1日置き、全体がしっとりした頃が食べ頃です。
    バターをたっぷり塗ってがお決まりの食べ方☆

    バターをたっぷり塗ってがお決まりの食べ方☆

 

※ 型は通常イギリスでは2パウンド入るローフ型(22cm×11cmくらいのパウンド型)をよく使いますが、結構大きめなので、小さめの型(18cm×9cmくらい)なら二つに分けて焼いてもいいでしょう。その場合は焼き時間は短めに、45分位経ったところで一度竹串をさしてチェックしてみてくださいね。

 


第116話 Sponge flan ~スポンジフラン~

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<Sponge flan スポンジフラン>

「フラン」と聞いてどんなものを想像しますか?フランス菓子に詳しい方なら、薄いペストリーの中に少しもっちりした食感のカスタードが入ったお菓子を思い出すかもしれないし、スペインやポルトガルなどで見かけるプリンのようなお菓子を浮かべる方もいるでしょう。では「Flan(フラン)」と言ってイギリス人が想像するものはどんなものなのか?

大きく分けると2種類あります。タルト型に敷いたペストリーの中にカスタード液(卵+牛乳)を流してオーブンで焼いたもの。フィリングはカスタードタルトのような甘いデザートタイプのものから、キッシュのような塩味のセイボリー系のものまで幅はありますが、要は卵液の入ったタルト状のもの。もうひとつはフルーツとゼリーののった平たいケーキ。これは「Sponge flan(スポンジフラン)」と呼ばれるもので、その名が示すように、スポンジ生地だけれど、でも前者のフランのようにタルト型のようなもので焼くというお菓子。正確にはタルト型ではなく、スポンジフラン専用の底の部分が上げ底になっている型を使います。これに生地を入れて焼き逆さまにすると、カルデラ湖の様に周囲だけ土手のように立ち上がった薄いスポンジが出来上がるので、このくぼみにベリーやキウイなどのフルーツなどを彩りよく並べ、ゼリーやアロールート(クズウコン)でとろみをつけたシロップなどを流して艶よく仕上げます。

sponge flan 1

スポンジのくぼみにフルーツをきれいに並べるのも楽しい工程☆

この「フルーツスポンジフラン」とも呼ばれるお菓子はひと昔ふた昔前に人気のあったデザートで、今となってはもはや懐かしのケーキといった立ち位置のお菓子。イギリス菓子にしてはカラフルだし、一見とっても手がこんでいるように見えますよね。でも意外や意外、とってもお手軽、しかも買い置きしている材料だけでもできてしまうというのでかなり人気があったのです。「でもフルーツも必要だしスポンジも焼かなくちゃいけないわよね?」。それが実は嬉しいことに市販のフランケース(中のくぼんだスポンジケーキ)と缶詰のフルーツ、そしてゼリーの素を使えば、あっという間に見た目豪華なデザートができてしまうのです。缶詰の桃やグレープフルーツにはオレンジのゼリー、いちごやラズベリーのときは赤いゼリーの素を使えばとってもラブリー。ゼリーを流さず、くぼみに泡立てた生クリームとフルーツを盛るというのもありですが、スポンジフランはやはり、ゼリーでクラシカルに仕上げたいところです。

時間があれば自分でスポンジから作るのもいいですが、イギリスのスーパーのお菓子材料売り場をよく見ると、メレンゲネストや、スポンジフィンガーなどのお手軽お菓子パーツ類と並んで、スポンジフランケースも大抵売っているので、忙しいときには本当に便利。ご興味ある方は旅先でもちょっとスーパーをのぞいてみてください。お菓子作りコーナーの充実ぶりに、思わずあれもこれも買いたくなること間違いなしです。

このワンセットを買い置きしておけばいつでもスポンジフランが作られます☆

このワンセットを買い置きしておけばいつでもスポンジフランが作られます☆

ところで英語のflanの語源は、古期ドイツ語でflat cakeを意味する Flado がラテン語のfladōn 、古フランス語のflaonを経てflan となったといわれています。そう言えばイギリスのスポンジフランはプリンでもカスタードでもなく、元の意味に戻って平らなケーキ。はじまりは一体どんなケーキだったのでしょう。さすがにこんなにカラフルなケーキはなかったと思いますが。

スポンジフラン専用の型はCook shop と呼ばれるキッチン道具屋さんで購入できます☆

スポンジフラン専用の型はCook shop と呼ばれるキッチン道具屋さんで購入できます☆

それにしてもこのスポンジフラン、一度頭を真っ白にして「オールドファッションなデザート」と言う先入観をはずして眺めてみると、意外とおしゃれにも見えてくるような、、、。スポンジケーキの上にのったキラキラフルーツ、悪くないですよね。日本でも近頃レディーメイドのタルトのケースは見かけるようになりましたが、このスポンジフランケースも、急場の時用に置いてあったら助かるのになぁ~思ってしまいます。たとえ途中まで出来ているパーツを使うにしても、ケーキ屋さんで買ってきたデザートをぽっと出すより、ひと手間かける分おもてなし感が出ますものね。とは言え、ないものねだりをしても仕方ない。うちではたまにこのスポンジフランを焼いて冷凍庫に入れておくことに。でもこんなに毎日暑い日が続くと、フルーツより、アイスクリームでももりもりに盛りたくなってしまいますが(^^;
みなさんも甘いものをいっぱい食べてなんとかこの暑い夏を乗り切りましょう~特にイギリス菓子が元気が出ますよ☆

第117話 Raspberry buns / Empire biscuits ~ラズベリーバンズ/エンパイアビスケット~

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<Raspberry buns/ Empire biscuits ~ラズベリーバンズ /エンパイアビスケット~ >

スコットランドはイギリスきってのビスケット王国。ご存知ショートブレッドにタンノックのティーケーキアバネシービスケットパーリーズ、それにダイジェスティブビスケットなどなど、スコットランド生まれのビスケットは数え上げたらキリがないほど。温かいミルクティーのお供に欠かせないビスケット。寒い土地だから余計にみんな、ティータイムを充実させるべく、せっせと美味しいビスケットを生み出したとか?そう言えばスコットランド女王Mary Stuart(1542-1587)は大のビスケット好きだったことで有名ですから、きっとスコットランド人のDNAには遠い昔から、ビスケット好き&ビスケットへの探究心が組みこまれているのでしょう。今日はそんなスコットランドのビスケットをもう少しご紹介。

一つ目は「Raspberry buns(ラズベリーバンズ)」。バンとはいうものの、イーストを使うパンではなく、ビスケットの一種。一見プレーンなちょっと大きめのビスケットのようにも見えますが、半分に割ると、中にラズベリージャムがひそんでいます。スコーンよりは甘く、でもショートブレッドほどリッチではない、強いて例えればロックケーキのような生地。「地味なビスケットね、、」なんて思いながら一口かじると中から赤いジャムが顔を出すなんて、なんとも嬉しいサプライズですね。なんでも第二次世界大戦の食糧配給制度の下、限られた材料で美味しいおやつが作れるということで、一気にスコットランドで人気が広まったのだとか。ちなみにスコットランドはラズベリーの産地としても有名です。

バンと言いつつ要はラズベリージャム入りのビスケット☆

バンと言いつつ要はラズベリージャム入りのビスケット☆

さて、もうひとつラズベリージャムを使うスコットランドで人気のビスケットが「Empire biscuits (エンパイアビスケット)」。薄いショートブレッドの間にラズベリージャムをサンド。アイシングとドレンチェリーでデコレーションを施したビスケット。何ともたいそうな名前ですが、もともとは「Linzer Biscuits(リンツ地方のビスケット)」「Deutsche Biscuits(ドイツビスケット)」なんて名前で呼ばれていたもの。それが第一次世界大戦勃発後、このいかにもドイツ的な名前は嫌われ、愛国心そそる「エンパイア(大英帝国)ビスケット」といつの間にか呼ばれるように。似たイメージで「Imperial biscuits(インペリアルビスケット)」なんて呼び名もあります。

堅い名前の割にはラブリーな姿のエンパイアビスケット☆

堅い名前の割にはラブリーな姿のエンパイアビスケット☆

この頃は王室ですらも(王室だからこそ?)国民感情を考慮し、ジョージ5世(在位1910-36)はドイツ風のSaxe-Coburg-Gotha家改め、Windsor家と改称するなどしていた時代。それは国民もおやつにビスケット食べるとき、「このドイツビスケット美味しいね!」なんて言いたくなかったのもまぁ仕方のないこと。さすがにドイツと仲良しに戻った現代はまた「German biscuits(ジャーマンビスケット)」と呼ばれることもありますが、エンパイアビスケットの名がほぼ主流。わたしとしても、ショートブレッドにラズベリージャム、アイシングにチェリーといういかにもイギリス的なパーツを集めたビスケットですから、やはりジャーマンよりは「エンパイア」の名で、イギリス菓子の持つノスタルジックな魅力を存分に発揮し続けて欲しいななんて思うのでした。

 

第118話 Jam sandwich biscuits~ジャムサンドビスケット~

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<Jam sandwich biscuits ジャムサンドビスケット>

前回ラズベリージャムをフィリングに使ったスコットランドのビスケットをご紹介しましたが、ラズベリージャムとビスケットの組み合わせはスコットランドだけに限ったものではありません。そこで今回はイギリス全国区で人気のジャムビスケットをご紹介。

地味めなビスケットの中いつも目立っているのが ジャムサンドイッチクリーム☆

地味めなビスケットの中いつも目立っているのが ジャムサンドイッチクリーム☆

ビスケットなので家庭で手作りもしますが、お手軽な市販品も大人気。スーパーのビスケットの詰め合わせ箱の中から真っ先になくなるのは、やはりチョコレートがけのものと赤いジャムがちらりとのぞいているものから。他のシンプルなものより数も少なめに入っている分、争奪戦です。本当はシンプルなビスケットのほうが好きなはずのわたしでさえ、ついつい先にそこに手が伸びてしまいますから、赤いジャムの魅力というのは相当なもの(笑)。そんなビスケットの詰め合わせにいつも入っているジャムビスケットは 「Jam sandwich cream」と呼ばれるもの。 形はいつも決まっていて、菊の花びらのような形をした2枚の幾分小さめのビスケットの間にバニラクリームがサンド、上のビスケットの中央からは真っ赤なラズベリージャムがのぞいています。そしてその上にキラキラと輝くグラニュー糖がふられているという、なかなかおしゃれなビスケット。他の茶色一色のダイジェスティブビスケットやプレーンなshorties (ショーティーズ)と呼ばれるビスケットたちの中ではダントツ光っています。もちろんこのジャムサンドイッチクリーム争奪戦に打ち勝つ自信のない人はFox’s社やスーパーのオウンブランドから、ジャムサンドイッチクリームだけでも売られているので心置きなく独り占めできます、ご安心を。

ジャミードジャーは味より見た目に魅かれてついつい買ってしまいます☆

ジャミードジャーは味より見た目に魅かれてついつい買ってしまいます☆

他にジャムサンド系で人気のビスケットはBurton’s Biscuits company から発売されている「Jammie Dodgers(ジャミードジャー)」。こちらは前者と違いメーカーの商品名なので、スーパーの詰め合わせビスケットには入っていません。ビスケット自体は色白でプレーンですが、真ん中のハートに開いた穴から見えるラズベリー風味の真っ赤なジャムがとってもキュート。表面のジャムの周りにはジャムのフレッシュ感を強調するようなスプラッシュ模様が浮き彫りになっています。このポップで元気なフェイスもいいのでしょう、数あるイギリス市販ビスケットの中で子供たちの選ぶ一番大好きなビスケットにも選ばれています。もちろん大人たちにも人気。今ではオリジナルのラズベリー風味ジャム(実際にはプラムジャムらしいのですが)の他に、ハートの穴から赤と黄色がのぞくジャム&カスタードやチョコレートバージョンも発売されています。オリジナルは1960年代生まれ、50年以上世代を超えて愛され続けているビスケット界のベストセラーのひとつです。ちなみに見た目に反してこのちょっと強そうな名前は The Beanoという漫画のRoger the Dodgerというキャラクターに由来しているのだとか。わたしは Dodger=ペテン師・スリなどの意から、てっきり不思議の国のアリスにも出てくる女王様のジャムタルトを盗んだハートのジャックから来ているのだとばかり思い込んでいました。でも、しっかり子供たちのハートを盗んでいますよね、なぁんてうまいことを言ったところで、お次のジャムサンドビスケットに、、(笑)。

手作りすると最高に美味しいヴィエニーズワール☆

手作りすると最高に美味しいヴィエニーズワール☆

「Viennese whirl (ヴィエニーズワール)」、日本語にすると、ウィーン風渦巻き(ビスケット)。他のビスケットと比べてバターの割合がかなり多く、口の中でほろりと砕ける繊細な食感。そしてその焼く前の生地の柔らかさ故に、天板に直接絞り出して整形するので、形もとてもエレガント。たいてい間にバタークリームとラズベリージャムをサンドするのですが、もうビスケットを越えて小さなケーキのようです。手作りするとジャムやクリームのなめらかさが目に飛び込んできてよりフレッシュな感じがたまりませんが、市販品なら、Mr.Kiplingのものが人気です。形にはいくつかパターンがあり、円形にぐるりと絞るのが基本形ですが、Viennese fingers と呼ばれる棒状のものや数回ジグザグに絞り出したものもあります。こちらはジャムサンドよりはチョコレートコーティングを施す場合のほうが多いよう。いずれバターたっぷりの柔らか生地を絞り出して作るヴィエニーズワールはビスケット界では高級感漂うマダムの風格。そんなマダムは名前からしてもちろんウイーンに縁があるのよね、と誰しもが思うところですが、実際のところウィーンとは何の関係もないそう。きっとあの渦を描いた装飾的な模様とウィーンの優雅なカフェシーンが重なってこんな名前になったのでは、、というのがもっぱら想像されているところです。

ヴィエニーズワールは市販品でも、サムプリントビスケットはみんな手作り☆

ヴィエニーズワールは市販品でも、サムプリントビスケットはみんな手作り☆

 

他にもラズベリージャムとクリームサンドのビスケットには、生意気そうな坊やの顔がなんとも言えないJacob’sのHappy faces や、手作り派ならビスケット生地をくるくるっと丸めて親指でくぼみを作ってジャムをつめるThumbprint biscuits などなど枚挙に暇はありませんが、キリがないので今日はこの辺で~。

 

 

ホリデー

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イギリスおかしファンの皆さま☆
近頃めっきり投稿が滞っておりますが、ご心配なく。
まだまだまだまだ書きたいお菓子は山ほどあるので、終わりません~
が、9月いっぱいまで夏休み☆
10月頃からまたお付き合いくださいませ (^^

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Yasuda Mariko

第119話 Ecclefechan tart/ Border tart ~エクルフェカンタルト/ボーダータルト~

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okashi


<Ecclefechan tart /Border tart  エクルフェカンタルト/ボーダータルト>

Ecclefechan はスコットランド南部、Dumfries and Galloway州の小さな村の名前。ヴィクトリア時代を代表する歴史家・評論家トーマス・カーライルの生まれ故郷としても知られているこの村ですが、もうひとつ、この村の名を有名にしているものがあります。それが「Ecclefechan tart(エクルフェカンタルト)」。ふむ、、アップルタルトやチョコレートタルトなどと違い、土地名のつけられたお菓子は、それがどんなものなのかまったく想像がつきませんよね、タルトなのは分かるけど、、。

ピーカンパイのようなねっちりさとミンスパイの濃厚さを兼ね備えた味わい☆

ピーカンパイのようなねっちりさとミンスパイの濃厚さを兼ね備えた味わい☆

このタルト、ざっくり言うと、ミンスパイとピーカンパイの間のようなお菓子。シンプルなショートクラストペストリーのタルトに、たっぷりの溶かしバターとブラウンシュガー、卵がベースの濃厚ねっとりフィリング。そのため、「Ecclefechan butter tart」 と呼ばれることもあります。そしてたくさんのドライフルーツとナッツ、さらにドレンチェリーが入っています。基本的には大きなタルト型で焼かれることが多いのですが、お店などでは一人用の小さなサイズに焼くことも。赤いタータンチェックのパッケージで知られるWalkersからも箱入りのEcclefechan tart が販売されていますが、こちらはその小さなタイプ。ちょっと軽めではありますが、見つけたら試してみる価値ありです。一度大手スーパーマーケットSainsbury’s もTaste the Difference シリーズから、ミンスパイの新しいお仲間としてエクルフェカンタルトを発売したことがありましたが、そのときも小さなタルトレットタイプ。個人的には大きく焼いて切り分けるタイプのほうがフィリングがたっぷり入り、このタルトの甘さを十二分に満喫できるので嬉しいのですが(笑)。甘さの中にもどこか深みのあるこのタルト、隠し味はフィリングに加えるちょっぴりのワインビネガー。これがなかなかいいお仕事をしているように思います。

タルトレットサイズのほうが甘さは軽減されて食べやすくはあります☆両方美味しい(笑)

タルトレットサイズのほうが甘さは軽減されて食べやすくはあります☆両方美味しい(笑)

 

さてこのエクルフェカンタルト、近隣に兄弟のような親のような、親戚タルトが大勢います。それが「Border tart(ボーダータルト)」たち。このEcclefechanの村のあるDumfries and Galloway州とお隣のScottish Borders とを合わせた一体を「Borders(ボーダーズ)」と大きくくくることがあるのですが、この辺り一体に生息しているタルトです。もともとはイーストで発酵させた生地に、シトラスピールで風味をつけたカスタード、マジパン、そしてサルタナの入ったタルトという姿だったようですが、この地方の人々がより身近な材料で手軽に作れるよう改良していった結果、ボーダーズの村々、ベイカリーの数だけバリエーションが増え、今や「これがボーダータルト」とひとつの枠にはめ込むことが出来ないほどさまざまなので、「ボーダータルト」たち。とは言え先のエクルフェカンタルトの親戚ですから、ショートクラストペストリーのタルトケースに、フィリングにはたっぷりのドライフルーツやドレンチェリー、バターや卵といった材料までは共通。そこにココナッツの入ったもの、アーモンドパウダーが入り、フランジパーヌ生地のようにふっくらソフトなスポンジ状になったもの、アイシングがかけられたものなどなど、といった感じです。Bordersの海沿いの町Eyemouthの名のついたEyemouth tartもやはり親戚。

フランジパーヌ状のフィリングが入ることの多いボーダータルトはEcclefechan よりは気持ち軽めです☆

フランジパーヌ状のフィリングが入ることの多いボーダータルトはEcclefechan よりは気持ち軽めです☆

それにしても何故スコットランドのこの地方にだけこのような他のイギリスタルトとは雰囲気の異なるタルトが普及したのか、、、Laura Masonによると1707年のAct of Union (イングランドとスコットランドが合併し、連合王国グレートブリテンとするという合同法)の前後のフランスとの密接な関係による影響の結果なのだとか。その辺のことはよく分かりませんが、またひとつスコットランドに行くときの楽しみが増えたのは確か。ボーダーズ地方のタルトやスコットランド独特のお菓子探し。宝の地図ならぬ、お菓子の地図を持っていつか旅に出かけたいものです~。

 

 

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