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Channel: イギリスおかし百科 –あぶそる〜とロンドン
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第61話 Madeira cake ~マデイラケーキ~

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okashi


<Madeira cake マデイラケーキ>

フランスなどと比べ、基本シンプルなケーキが多いイギリスですが、その中でもプレーンなケーキの代名詞としても使われるほどにシンプルなのがこの「マデイラケーキ」。材料はいつもの4つ、バターとお砂糖と卵と小麦粉、それに香りづけのレモンの皮だけ。ヴィクトリアスポンジや材料が全て同量ずつ入るいわゆるパウンドケーキより小麦粉が多く入るため、もう少ししっかりしたテクスチャーになります。よって型崩れしにくいため、バタークリームやシュガーペーストなどしっかりデコレーションを施すケーキ(例えば子供たちのバースデーケーキなど)のベースとして使われたり、トライフルのシロップやお酒を染み込ませる土台に使われたりすることも。もちろんそのままで充分美味しいのでシンプルに紅茶と味わうのが一番ですが。もとい、マデイラワインといただくのが一番の味わい方でした。なんと言っても「マデイラケーキ」ですから。。。名前から想像するにこのケーキ、ポルトガル領のマデイラ島発祥?それとも中にマデイラワインが入っている?なんて思ってしまいますが、そういうわけでもなく、マデイラワインに合うからマデイラケーキ。アメリカでコーヒーに合うケーキをコーヒーケーキと呼ぶのと同じ様なものかもしれませんね。

Simple is Best な味わいのマデイラケーキ☆

Simple is Best な味わいのマデイラケーキ☆

マデイラ島はイギリス人の大好きなリゾート地、そして古くはヨーロッパからのアメリカ大陸や喜望峰周りの航路の中継基地として栄え、当時からマデイラ島のワインは人気の輸出品でした。イギリスではシェークスピアの時代からマデイラワインは珍重されており、その作品にも登場します。例えば「ヘンリー4世」では大酒飲みのFalstaffが「マデイラ酒とコールドチキン」のために魂を売った男として登場。
What says Sir John Sack and Sugar? Jack! How agrees the devil and thee about thy soul, that thou soldest him on Good-Friday last for a cup of Madeira and a cold capon’s leg?
「やぁ、サック&シュガー殿 【Falstafは砂糖入りサック(シェリーやマデイラ酒のこと)が大好きだったのでこう呼びかけられています】。先のグッドフライデーに一杯のマデイラと鶏の足のために悪魔に魂を売り渡したそうじゃないか」(Henry IV Part1 Act1)
シェークスピアの時代にマデイラケーキが食べられていたかは分かりませんが、少なくとも18、19世紀にはもうすでに人気のケーキだったそう。昔から砂糖やワインの貿易港として栄えていたイギリス南西部のBristol 発祥という説もありますが、詳細は謎。。。

昔は遅い朝食としてマデイラワインと共に食べていたそうですよ☆

昔は遅い朝食としてマデイラワインと共に食べていたそうですよ☆

ではここで、1845年の出版のEliza Acton 著「Modern cookery for private families」に載っているマデイラケーキのレシピを見てみましょうか。
A GOOD MADEIRA CAKE : Whisk four fresh eggs until they are as light as possible, then, continuing still to whisk them, throw in by slow degrees the following ingredients … この後材料が6オンスの砂糖、6オンスの粉、4オンスの溶かしバター、レモンの皮、小さじ1/3の重曹と続きます。そう、こういったタイプのケーキにしては珍しいことに、卵を先に泡立て、あとから溶かしバターを加える作り方なのです。実はこれ、Eliza Acton の工夫の産物。本来はバターをクリーム状にして、順繰りに材料を混ぜていくところなのですが、当時、木のスプーンで固いバターをクリーム状にするのは結構な労働。そこで、彼女が考え出したのがバターを溶かしてから最後に加えるという方法。本の中ではこんな風に説明されています。「前もって温めておいたソースパンに小さくカットしたバターを入れ、火のそばで軽くゆすって溶かします。それ以上は決して熱くせず、これを少しずつ他の材料に混ぜていけば、とっても軽いケーキに仕上がることが分かりました。シードケーキやプレーンなケーキにはとてもおススメな方法です。ただし、プラムケーキ(レーズンなどのドライフルーツたっぷりのケーキ)の場合は、この方法だとフルーツが底に沈んでしまうので、通常のバターを最初にクリーム状にする方法で作ること」と。実にプラクティカルないいレシピ本です。後に出るビートン婦人の家政書のレシピの多くがこの本を参考にしていたと言うのがよく分かります。

インスタントのマデイラミックスもスーパーでは良く見かけます☆

インスタントのマデイラケーキミックスもスーパーではよく見かけます☆

では今日は Actonのレシピではなく、今の時代の一般的なマデイラケーキの作り方をご紹介します☆

  1. 室温で柔らかくした無塩バター175gをクリーム状にし、グラニュー糖175gを加えて泡だて器で全体に白っぽくなるまで撹拌します。そこに卵3個を少しずつ加えながらさらに撹拌。
  2. 薄力粉250gとベーキングパウダー小さじ2を①のボールにあわせてふるい入れます。レモンの皮のすりおろし1個分も加えたら、ゴムベラでなめらかになるまで混ぜましょう。
  3. 紙を敷いた直径18~20cmの型に入れて170℃に予熱したオーブンで約50~1時間程、中央に火がとおるまで焼いたら出来上がり。(竹串をさしてチェックしてくださいね)

    ※ 40分ほど焼いたところで、上に薄くそいだレモンの皮(面倒でなければ軽くシロップで煮たもの)をのせることもあります。あくまで飾りなのでお好みで~


第62話 Canary pudding & Sponge pudding ~カナリープディング&スポンジプディング~

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okashi


<Canary pudding & Sponge pudding  ~カナリープディング&スポンジプディング~>

前回、プレーンなケーキの代名詞的存在として、「マデイラケーキ」をご紹介しましたが、今回はほぼ同じようなプレーンな生地を、オーブンで焼くのではなく、蒸して作るお菓子をご紹介します。その名は「カナリープディング」。配合も作り方もマデイラケーキとほぼ同じ、バターにお砂糖、卵に粉の基本の生地に香りづけのレモンの皮を加える点も一緒。唯一違うのは加熱法。プディングベイスンという陶器の型に入れてお鍋で蒸し上げます。しかもマデイラ島のご近所の島、カナリア諸島(Canary Islands)を思い起こさせるこの名前。何かマデイラケーキとも関係あるのかしら?と思うところですが、そんな暇なことを考えている人はどうやら私の他にはいないよう、、、。マデイラケーキ同様その名が冠せられてはいるもののカナリア諸島生まれのケーキではなく、その名前の由来はカナリアはカナリアでも「鳥のカナリアのように黄色いから」というのがもっぱらの定説です。でも黄色いものなんて他にもいくらでもあるし、イギリスのケーキとカナリアという組み合わせがどうもしっくり来ないのは私だけではないようで、一説によると昔のカナリープディングはカナリア諸島で作られるマデイラ酒のような酒精強化ワインで風味付けされていたからこの名がついた~という人も。

ビートン婦人レシピで作ったカナリープディング☆

ビートン婦人レシピで作ったカナリープディング☆

さて、そんな名前の由来はともかく、このカナリープディング、今は「スポンジプディング」と呼ばれることがほとんど。配合はヴィクトリアスポンジのようにバター・砂糖・卵・粉同割りのこともあれば、マデイラケーキのように粉が多めのこともありますが、いずれそういったスポンジ生地を蒸して作ったものが「スポンジプディング」。器の底にジャムを敷いておけばひっくり返したときにジャムがたらりとたれる「ジャムスポンジプディング」。それがゴールデンシロップになれば「シロップスポンジプディング」または「トリークルプディング」。バリエーションは星の数ほど。レモンカードを敷けば「レモンカードスポンジプディング」、カランツを底に敷き詰めてからスポンジ生地を流せば、お皿にひっくり返したその見た目から「Black cap sponge pudding」と呼ばれたり、とにかく枚挙に暇がありません。

何とあわせても、蒸すからこそのふんわり優しい味に☆

何とあわせても、蒸すからこそのふんわり優しい味に☆

生地を蒸すための陶器のプディングベイスンが使われるようになったのが17世紀。それまではプディングクロスと呼ばれる布で生地を包んで、茹でるか蒸すかという調理法。それと比べると格段に便利に、格段に姿よくプディングを作れるようになったわけです。しかもスエットの代わりにバターを使ったこの生地はスポンジと呼ばれるように軽~い仕上がり。ヴィクトリア時代には一世を風靡します。ではここでビートン婦人の家政書(1861)のレシピに従って当時のカナリープディングを作ってみましょうか。

CANARY PUDDING

Inglidients- The weight of 3eggs in sugar and butter, the weight of 2 eggs in flour, the rind of 1 small lemon, 3eggs.
Mode- Melt the butter to a liquid state, but do not allow it to oil; stir to this the sugar and finely- minced lemon-peel, and gradually dredge in the flour, keeping the mixture well stirred; whisk the eggs; add these to the pudding; beat all the ingredients until thoroughly blended, and put them into a buttered mould or basin; boil for 2 hours, and serve with sweet sauce.
(材料― 卵3個分の重さの砂糖とバター、卵2個分の重さの小麦粉、小さなレモン一個分の皮、卵3個。作り方―  バターを溶かし(オイル状にならない程度)、砂糖とレモンの皮を加え混ぜ、粉を徐々に加えます。溶いた卵も加え全てよく混ざったら、バターを塗った型に入れます。2時間茹で、甘いソースを添えて供します。)

さてこのとおりに作ってみると~ベイキングパウダーが入らないので今の時代のスポンジプディングと比べると大分締まった食感。それでもスポンジはスポンジ、当時にすればこれでも充分な軽さでしょう。

お手軽スポンジプディングは電子レンジで温めるだけ☆

お手軽スポンジプディングは電子レンジで温めるだけ☆

長い間イギリスの家庭で愛され続けてきたスポンジプディング。時代の流れとともに20世紀中頃には缶詰のプディングが生まれ、1990年代には電子レンジで温めるだけで食べられるスポンジプディングが登場しています。こうしてどんどん手軽になり、さらに人気も上がるのかと思いきや、ライバル出現。1980年代頃からはチーズケーキやティラミス、パンナコッタやタルト・オ・シトロンといった目新しいケーキが登場、定番だったスチームプディングの人気は徐々に衰えていきます。そして数年前までは「古臭いプディング」そんなポジションに甘んじていたスポンジプディング、それがここ数年のベイキングブームにより、トラディッショナルなプディングにスポットライトが当てられるようになると~レストランのデザートに、スーパーのデザートコーナーに続々再登場。今では、「スイスチョコレートスポンジプディング」に「ソルトキャラメルスポンジプディング」、シシリアンレモンフレイバーにアマレット風味などなど、おしゃれに生まれ変わって魅力倍増。新たな地位を確立したようです。私的にはシンプルにジャムスポンジやレモンカードスポンジくらいで充分においしい!と思ってしまいますが、ちょっぴり今どきな味付けがされていようと、クラシカルなスポンジプディングが再度注目され、小さな子供たちや若い人たちの間でまた受け入れられ、受け継がれていくのは非常にうれしいことです☆

 

第63話 Clootie dumpling ~クルーティーダンプリング~

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<Clootie dumpling クルーティーダンプリング>

12月に入り、世の中はすっかりクリスマスムード一色。イギリスのクリスマスシーズンの甘いものといえば、ドライフルーツやブランデーたっぷりのクリスマスケーキクリスマスプディングミンスパイなどが有名ですが、今日はイギリス北部スコットランドのクリスマスのお菓子をご紹介します。

ずっしり重く、胃も心も温まるプディングです☆

ずっしり重く、胃も心も温まるプディングです☆

「クルーティーダンプリング」。聞き慣れないクルーティーという単語はスコットランドの言葉で「cloth布」を意味するcloot またはclout から、そしてダンプリングは「お団子」の意味。布で生地を包んで茹でるという、このプディングの調理法からつけられた名前です。クリスマスプディングにしろ、他のスチームプディングにしても、今でこそ陶器のプディングベイスンに生地を入れて蒸すのが一般的ですが、陶器の型が発明される以前のプディングの調理法は、「布で生地を包んで鍋の中で茹でる」というもの。クルーティーダンプリングは今でも昔ながらの製法のまま作られているトラディッショナルなプディングなのです。

材料は小麦粉にスエット(牛のケンネ脂)、レーズンやサルタナなどのドライフルーツ、お砂糖に卵に、パン粉に牛乳、たっぷりのスパイス。作り手によりオートミールや粗くおろした人参やりんごが入ることも。材料をそろえたら、あとはこれらを混ぜ合わるだけ。大切なのは布の準備です。お鍋にお湯を沸かし、熱湯で布をボイルして広げたら、たっぷりの小麦粉をふるいます。ここに生地を入れて紐でしっかり口を縛れば準備完了。湯気のたったお鍋にドブン!布にふるった小麦粉は熱湯に入れると皮のようにプディングをシールドし、余分な水分が入り込むのを防いでくれます。だから茹でてもプディングの中までべちゃべちゃ~なんてことにはならないのです。サイズにもよりますが、茹でる事3~4時間。布をはずすとのり状の「皮」が表面を覆っていてべとっとしていますが大丈夫。これをオーブンに入れて乾かすと、しっかりとした皮の大きなダンプリング状のプディングの完成です。オーブンが普及する前は、かまどの火にプディングをかざして乾かしていたのですが、これは子供たちの役割だったとか。ご馳走を目の前にワクワクのお手伝いです。他のプディング同様、このクルーティーダンプリングも近頃は陶器のプディングベイスンに生地を入れて茹でることもありますが、クルーティーダンプリングをクルーティーダンプリングたらしめているのはこの布と作り方、それはもう「クルーティーダンプリング」とは呼べないよ~という声が多いのも分かります。

イングランドのクリスマスプディングと比べ、ドライフルーツも少なめで、ブランデーやスタウトなどのアルコール類も入らず、もちろん、食べるときにブランデーをかけて炎を灯すようなこともしないこのプディング、味、見た目共に豪華さはありません。目新しさや見た目の華やかさだけにとらわれない、質実剛健さを好むスコットランドだからこそ作り続けられているのかもしれません。親から子へそして孫へと語り伝えられてきたそのレシピはファミリーレシピが故に、レシピ本にのせられることもなく、古い文献にその名を見つけることはできません。ようやく本に登場するようになったのは20世紀入ってからのこと。ボイルドプディングを作る人が減り、その伝統的な作り方を伝える必要ができてからのこととなります。ただし、ボイルドプディングの基本のようなこのプディング、名前は違えど同じようなものは18~19世紀の本にいくつも見つけることはできます。例えば1747年の出版のHannah Glasse 著「The art of cookery made plain and easy」の中の「A Boiled Plumb- Pudding」。~1パウンドずつの小麦粉、スエット、カランツに8個の卵と牛乳、そしてとパン粉とスパイス、これらを混ぜて5時間茹でなさい~というレシピのこのボイルドプラムプディングも、今のクルーティーダンプリングとほぼ同じようなものが出来上がります。相当巨大ではありますが(笑)

粉をふるった布で包みます☆昔はプディングクロスにピローケースを使うこともあったとか、、、

粉をふるった布で包みます☆昔はプディングクロスにピローケースを使うこともあったとか、、、

さて、このクルーティーダンプリング、冒頭でクリスマスのプディングとご紹介しましたが、実はクリスマスに限らず、お誕生日などのお祝い事や家族が集まるときにも作られるもの。ただ特に、クリスマスシーズンと、スコットランド特有のイベント、Hogmanay(大晦日の年越しのお祝い)やBurns Night(スコットランドの詩人ロバートバーンズを偲ぶ日)の時に作られることが多いのです。そんなスペシャルな時に作るクルーティーダンプリングにはクリスマスプディング同様、ラッキーチャームを中に忍ばせることもあります。6ペンスコインを当てた人は富と幸せを約束され、指輪は結婚を、ウイッシュボーンは待ち人が来ることを示唆するのだとか。

カスタードと共にデザートに、ベーコンと共に朝食にと2度美味しいクルーティーダンプリング☆

カスタードと共にデザートに、ベーコンと共に朝食にと2度美味しいクルーティーダンプリング☆

さてこのプディングの食べ方ですが、最も人気なのはスライスした温かいプディングになみなみのカスタードを添えるもの。人によっては生クリームやジャムを添えることもありますが、やはりスコットランドの寒さを吹き飛ばすには温かいカスタードを添えるのが一番ぴったり。クリスマスプディングと比べて甘みも控えめで、スライスも容易に出来る固さのこのプディング、もうひとつの別の楽しみ方も。余ったプディングは翌日の朝食にも登場するのです。ある朝スコットランドのB&Bで「トラディッショナルなスコティッシュブレックファストだよ」と登場したのは油でソテーされたクルーティーダンプリング。ソーセージやブラックプディングなどと共にお皿に乗せられたそれは、一般的な食べ方なのだとか。イングリッシュブレックファストに登場するフライドブレッドよりはずっと美味しい~(笑)。

今年も気づくとクリスマスまであと2週間ほど。1ヶ月以上前に作らなくてはならないクリスマスプディングを作り損ねちゃったという人でも、クルーティーダンプリングなら直前でも間に合います。プディングの生地を布で包んで茹でるのはちょっと勇気がいるけれど、スペシャルトラディッショナルなクリスマスのデザート作りにトライするチャンスかも☆

第64話 Dundee cake~ダンディーケーキ~

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イギリスおかし百科


<Dundee cake ダンディーケーキ>

「ダンディーケーキ」。残念ながら「ダンディーな男前のケーキ」ということではありません。スコットランドの海沿いの街 Dundee 生まれだからダンディーケーキ。イギリスでよく見かけるドライフルーツたっぷりのどっしりフルーツケーキで、特徴は中に入れるオレンジピールとその上に放射状に並べられた皮むきアーモンド。なかなかリッチな味わいです。ただし、リッチさで言えば、伝統的なクリスマスケーキに比べると、そのドライフルーツの含有量はまだまだかわいいもの。クリスマスケーキはちょっと重すぎて、、、という向きに、その代わりとしても人気があります。

一目でそれと分かる放射状のアーモンド飾り☆

一目でそれと分かる放射状のアーモンド飾り☆

さて、なぜこのケーキがダンディーの街で生まれたのかというと、この街はもともとマーマレードの街としても有名なのですが、このマーマレードを最初に売り出したメーカーがマーマレード作りのシーズン以外にも作れる商品を~というので売り出したため。そしてこのマーマレードメーカーというのが今も有名な James Keiller and Son のこと。

苦~いセヴィルオレンジを使ったマーマレードにケーキはその苦味がいいアクセント☆

苦~いセヴィルオレンジを使ったマーマレードにケーキはその苦味がいいアクセント☆

『18世紀にこの街で食料雑貨店を開いていた James Keiller 氏が、ある日嵐で動けなくなっていたスペインの商船より大量のオレンジを買い取ります。ところがそのオレンジは生食には適さない苦いセヴィルオレンジ、困った氏は妻のJanet に託したところ、彼女はとても美味しいマーマレードを作りだしました。これがマーマレードの始まりです~』 というのがこれまでよく聞いたお話し。ところが最近の調査で分かったのはこの話しの舞台となる時代のダンディーには、Jamesと Janetという夫婦は存在しておらず、JamesはJanet の息子だったということ。Janetはマーマレード自体を発明したわけではなく、当時からすでに存在していたマーマレードに工夫を凝らし、オレンジの皮が中に散った新しいタイプのマーマレードを生み出し、それが大評判となったことなど。でもまぁ例え Janet さんがマーマレードの生みの親でなくとも、おいしいマーマレードを作り出したことは確か。そしてそのおかげで、イギリス国中の朝のテーブルに欠かせなくなるほど、マーマレードの人気は広がったのですから、マーマレード界の革命マダムであることには変わりはありません。それから200年以上、持ち主は変わりながらも今も「James Keiller and Son」の名でダンディーのマーマレードは作り続けられ、世界中にその名を知らしめています。21世紀の今でもなお、イギリスの朝食のパンのお供と言えばマーマイトとマーマレードは双璧。ダンディーマーマレードはじめ、スーパーにはとにかく驚くほどの種類のマーマレードが並びます。皆それぞれお気に入りがあるようで、皮を極力薄くスライスしたThin cut、 厚めがお好みの人にはthick cut マーマレード。皮はまったく入らない透明なジェリー部分だけのnon peelマーマレード。色の濃い苦味が利いたvintage マーマレード。スコッチウイスキー入りや果ては金箔入りまで見かけるほど。メーカー別では Frank Cooper’s のVintage Oxfordや Wilkin and Sons Tiptreeの Old times’ Orange 、Robertson’s のGolden shred などが人気のようです。

あなたは苦めがお好み?それとも、ピールなしのライトなマーマレード?

あなたは苦めがお好み?それとも、ピールなしのライトなマーマレード?

そもそもmarmalade とはポルトガルの「Marmelada」に由来した名前。16世紀にヘンリー8世へと贈られたマルメラーダとは マルメロ(英語でquince)を使って作る固いゼリー状もので、今のイギリスのチーズ売り場に置いてある、クインスジェリー(またはクインスチーズ)のようなものだったとか。

紅茶のお供にもいいけれど、クリスマスにお酒と楽しむのもたまりません☆

紅茶のお供にもいいけれど、クリスマスにお酒と楽しむのもたまりません☆

ダンディーケーキからマーマレードの話しになりましたが、ダンディーケーキ自体も今ではイギリス国中で見かけることが出来ます。アーモンドの飾りも豪華なダンディーケーキは贈り物としても喜ばれるため、特にクリスマスシーズンの12月には人気のケーキ。ただ、あまりにどれもこれもがダンディーケーキとラベルを貼るため、本家のダンディーとしては面白くなかったようで、目下PGI(Protected Geographical Indicator 原産地名称保護制度)status に申請中。これが認められると、EU圏内ではダンディーの街で定められた材料とレシピを使い焼かれたケーキのみ「ダンディーケーキ」という名称を使えるようになるのだそう。これにはダンディーケーキを主力商品にしているダンディー以外のお店からは商売上がったりだと反対意見轟々のようですが、、。ちなみにこのPGIの申請書に記載されている本家本元ダンディーケーキの原材料はと言うと~有塩バター、砂糖、卵に小麦粉。厚くカットしたセビルオレンジの皮が最低5%にオレンジの皮のすりおろし最低1%、サルタナ最低27%に皮むきアーモンドが最低3%。オプションとしてシェリー酒とアーモンドパウダー、割りアーモンド。保存料としてのクエン酸~だそうです。
美味しいダンディーケーキがダンディーの街以外でも気軽に手に入るのはうれしいけれど、自分たちの街の名がついたケーキのクオリティーを守りたい気持ちも分かるし、、、。クリスマスまであと10日足らず。誰か私にも美味しいダンディーケーキ贈ってくれないかなぁ~なんて、やっぱり自分で焼かないとダメかしら、、、。

第65話 Twelfht ngiht cake ~トゥエルフスナイトケーキ~

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イギリスおかし百科


<Twelfth night cake トゥエルフスナイトケーキ>

1月7日、七草粥を食べてもなお、なんだかお正月気分から抜け出せないわ~なんて声を聞く事もありますが、クリスマスに関してはやたらと切り替えの早い日本。12月25日のクリスマス当日にはもうツリーは大急ぎでしまわれ、お正月の準備をしなくっちゃとばかりに走りだし、クリスマスの余韻に浸る暇もありませんが、イギリスでは1月6日までがクリスマスシーズン(Christmastide)。1月5日頃ようやくみなクリスマスの飾りを下ろします。Twelfth Day と呼ばれる1月6日はその名が示すとおりクリスマスから数えて12日目。東方の三博士がベツレヘムのイエスキリストのもとに謁見し、贈り物を捧げた日。Epiphany (公現祭)という言葉を聞いたことがあるという方も多いでしょう。この日はキリスト教教義上1年の中で最も神聖な日のひとつ。イギリスではこれを祝い、前日の5日夜から宴が行われていました。ちょっとややこしいのですが、古来の考え方では、1日は日没から始まり、日没で終わるとされていたため、1日は朝(午前零時)に始まり夜終わるという現代の感覚からすると半日前倒しとなります。つまり当時にすれば、今で言う5日の日没後こそがTwelfth Dayの夜(Twelfth Night)だったのです。

ドライフルーツたっぷりのトゥエルフスナイトケーキ

ドライフルーツたっぷりのトゥエルフスナイトケーキ

この日はクリスマスタイドのクライマックス。人々は集い、ご馳走を食べさまざまなゲームやお芝居を楽しみました。また、ちょっとしたいたずらをしかけるのも習慣だったとか。いたずら?そう、いたずらです(笑)。例えば有名なものだと、空っぽのパイに生きた蛙や鳥を入れておき、切ったときにパッと飛び出すなんてもの。それって何か聞いたことがあるような~なんて思われた方はなかなかのイギリス通。そうまさにあの黒つぐみが登場するナーサリーライムの歌詞のようですね。「Sing a Song of Sixpence(6ペンスの唄)」を聞き、いつもの荒唐無稽な歌詞のひとつだとばかり思っていたら、24羽は無理にしてもパイから生きたブラックバード(黒つぐみ)が出てくるのはありえない話ではなかったのです(^^;
……………………………..

Sing a song of sixpence,  6ペンスの唄を歌おう
A pocket full of rye,  ポケットにはいっぱいのライ麦
Four and twenty blackbirds,  24羽の黒つぐみ
Baked in a pis.  パイの中に焼き込められた

When the pie was opened,  パイを開けたその時に
The birds began to sing,  その鳥たちが歌いだした
Was not that a dainty dish,  王様にお出しするのに
To set before the king?  ふさわしいご馳走ではないですか
…………………

一粒の豆入りケーキ・・・その昔、豆は神聖な食物だったのだとか。

一粒の豆入りケーキ・・・その昔、豆は神聖な食物だったのだとか。

前置きが相当長くなりましたが、このTwelfth Night に食べられていたケーキが本日テーマの「トゥエルフスナイトケーキ」。今でこそクリスマスのメインは12月25日ですが、18世紀19世紀頃はこのトウェルフスナイトの方がクリスマスディナーをいただく日。そこで振舞われるケーキはドライフルーツたっぷりのちょうど今のクリスマスケーキのようなものでした。そして中に一粒のbean(乾燥インゲン豆)を焼き込むのが慣わし。その特別なケーキはその場にいる人全てに一切れずつ配られ、インゲン豆があたった人はその夜一晩キングとなり、例え当たったのが使用人であろうと、子供であろうと、当主にでも誰にでも好きな命令が出来たのだとか。地域によってはインゲン豆の他に pea(乾燥エンドウ豆)も一緒に焼き込まれ、これがあたった女性はクィーンとなり、やはりその晩はBean king と共に思う存分女王様気分を満喫できたのだそう(^^。はじめはシンプルだったケーキも19世紀はじめ頃にはアイシングで覆ったり、美しい紙やシュガーペーストで作った飾りが施されたりと、豪華にデコレーションされるようになっていきます。そして次第に中に豆を入れることはなくなり、食べる日もトゥエルフスナイトから12月25日へと変わりましたが、このケーキが現代のイギリスのクリスマスケーキとなるわけです。ところで豆を当てた人がキングやクィーンになれる、、、近頃日本でも有名になったフランスのエピファニーのケーキ、ガレットデロワと一緒ですね。あの中に入れられている陶器のラッキーチャームはフェーブといいますが、フェーブはフランス語で「豆」の意。昔は豆を入れていたからそう呼ばれているのですが、ケーキの形は違えど、イギリスと同じ習慣がフランスでは今も引き継がれているわけです。

昔のトゥエルフスナイトの過ごし方についてなど興味深いお話しはまだまだ沢山あるのですが、ここは食べ物についてだけに集中することにして~最後にトゥエルフスナイトケーキと共によく飲まれていた飲み物 「wassail(ワッセイル)」について少し触れておこうと思います。

焼きりんごをそのまま一緒に温めるタイプのワッセイル☆

焼きりんごをそのまま一緒に温めるタイプのワッセイル☆

Wassail とはサイダーまたはエールに焼いたりんごとスパイス、シェリー酒などを加えた温かい飲み物のこと。中世よりクリスマスタイドの間、このワッセイルと専用の大きな器(wassail bowl)を持って家々を回り、新年の幸せを祈り飲み交わす wassailing(ワッセイリング)という習慣がありました。また、ワッセイリングはりんごの豊作を願う行事でもありました。1月5日のトゥエルフスナイトまたは旧暦のOld twelfth night (1月17日)に果樹園ではワッセイルを浸したトーストをりんごの枝に刺し、木の根元にワッセイルを注ぎました。そして大きな音をたてて、悪霊を追い払い、冬の間眠っていた木々の精霊たちを目覚めさせ、翌年の収穫を祈ったのです。ちなみにこの「wassail」 という語は、アングロサクソンの習慣で1年の始まりに城主が民衆に向かって叫ぶ「Waes hael (Be well の意)」という言葉からきていると言われています。ワッセイルのレシピはその土地土地によって様々ですが、ベースはりんごのお酒であるサイダーまたはエール(ビールの一種)で、シェリー酒やポートワインを少量加えます。そこに砂糖か蜂蜜といった甘味料、クローブやシナモンなどのスパイスも加えて温めるのですが、ここに欠かせないのは焼きりんご。ただ、小型のりんごを焼いてそのまま浮かべるところ、小さめにカットしてお酒に加えるところ、ブラムリーなどのクッキングアップルを焼いてマッシュして混ぜ込むところなど地域によって使い方 はいろいろです。特にこの最後のマッシュして加えるタイプは白っぽくなるまでよく泡立てるので、その見た目からLamb’s wool (子ひつじの毛)と呼ばれます。今ではクリスマスの飲み物と言えばワインとスパイスで作るmulled wineが主流ですが、少しほろ苦い大人味のワッセイルこそイギリス伝統の冬の味なのかもしれません。

マッシュした焼きりんごを加えるラムズウールと呼ばれるワッセイル☆

マッシュした焼きりんごを加えるラムズウールと呼ばれるワッセイル☆

このトゥエルフスデイが終わるとクリスマスシーズンもようやく終わり。人々もワッセイリングで起こされたりんごの木や精霊たちも活動開始。私もそろそろお正月ボケから抜け出して気持ちも新たに活動開始しないと~。まだまだ沢山あるイギリスお菓子、今年もご紹介していきますのでお楽しみに ♪

第66話 Scarborough Fair shortbread ~スカボローフェアショートブレッド~

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<Scarborough Fair shortbread スカボローフェア ショートブレッド>

「スカボローフェア」という言葉で真っ先に思い出したのはサイモン&ガーファンクルの 「Scarborough Fair」 という曲。すぐには思い浮かばなくとも、フレーズを聞いたらきっと誰もが「あ~あれね」と思いあたる哀愁漂う曲です。Scarboroughとはイギリスのヨークシャー地方の海沿いにある、中世の面影を残す街。そこで13世紀頃から毎年夏に開かれていたという大きな市(マーケット)がスカボローフェア。この定期市に向かう旅人に自分の昔の恋人がそこにいるから伝えてくれ~という内容の歌詞なのですが、その中で印象的に何度も反復される 「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム…」のフレーズ。 この4つのハーブをシンプルなショートブレッドに加えたのが今日のテーマの「スカボローフェアショートブレッド」です。

scarborough fair 1

4つのハーブが持つ力を分けてもらいましょう☆

このショートブレッド作りにとりかかる前に~折角なのでちょっとその詩の内容を見てみましょうか。

Are you going to Scarborough Fair? (あなたはスカボローフェアに行くのですか?)
Parsley, sage , rosemary and thyme (パセリ、セージ、ローズマリー、タイム)
Remember me to one who lives there (そこに住むある人によろしく伝えて欲しいのです)
For once she was a true love of mine (かつて私の恋人だったその人に)

Have her make me a cambric shirt (彼女に麻のシャツを作るよう伝えてください)
Parsley, sage , rosemary and thyme (パセリ、セージ、ローズマリー、タイム)
Without a seam or fine needle work (縫い目も細かな針仕事もなしに)
And then she’ll be a true of mine. (そうすれば彼女は私の恋人になれると)

Have her wash it in yonder dry well (彼女にそれを枯れた井戸で洗うよう伝えてください)
Parsley, sage , rosemary and thyme (パセリ、セージ、ローズマリー、タイム)
Where ne’er a drop of water e’er fell (一滴の水も雨も降らないその場所で)
And then she’ll be a true love of mine. (そうすれば彼女は私の恋人に)
・・・・
こんな感じでいくつもいくつも恋人への無理難題を羅列する男性。そして呪文のように繰り返される「Parsley, sage , rosemary and thyme」のフレーズ。「あれっ?知っているのとちょっと違うような、、、」。そう、サイモン&ガーファンクルが歌ったものとはちょっと歌詞が違いますね。サイモン&ガーファンクルがこの曲をリリースしたのは1966年のことですが、実はこの曲、もともとイギリスに古くから伝わる「Broadside ballad (ブロードサイドバラッド)」のひとつを彼らがアレンジしたものなのです。バラッドとは民衆や吟遊詩人によって歴史物語や社会風刺、寓話などを旋律にのせ、口から口へと歌い継がれた民謡のことで、その歴史は13世紀頃まで遡れると言われています。文字を持たない民により口承伝承されたものなので、ひとつの歌でもいくつものバリエーションが存在しますが、上記の歌詞はその中のひとつ。サイモン&ガーファンクルのものは原曲に反戦の意味合いを込めて編曲したものなのです。ブロードサイドバラッド(文字に印刷されるようになってからのバラッド)はナーサリーライム(マザーグース)同様数多く残され、イギリスの文学や文化にも多くの影響を与えています。ところで気になる「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」の意味ですが、これにはいろいろな解釈があり、どれが正しいという答えは見つかっていません。パセリには昔から悪の力を遠ざける魔法の力があると言われ、セージは不滅の魂を、ローズマリーは貞節と愛を、タイムは幸運と心の平和をもたらすとされていることから、旅人が男への返答として繰り返しているとか、またこの言葉自体に意味はなく、もともとの古語の歌詞が似たような語へと変化し、言葉遊びのように繰り返されている、など諸説・・・。

Parsely , Sage, Rosemary and Thyme....

Parsely , Sage, Rosemary and Thyme….

ではそろそろ、Scarborough Fair shortbread を作ることにしましょう。

    1. 無塩バター175gを室温で柔らかくし、グラニュー糖90gを加えてよく混ぜます。
    2. ここに薄力粉225gとコーンスターチ25gを合わせてふるい入れます。
      パセリとセージ、ローズマリーとタイムを合わせて刻んだもの大さじ2も加えたら、粉が見えなくなるまでゴムベラなどで合わせ、ラップに包んで冷蔵庫で15分位冷やします。
    3. 3~4mm程の厚さにめん棒でのばしたら、5~6cmの丸型で抜き、160℃のオーブンで15分程うっすらと焼き色がつくまで焼いたら出来上がり。
      ※ ハーブの割合はお好みで。
ハーブの香りと緑を消さないよう色白に焼き上げて☆

ハーブの香りと緑を消さないよう色白に焼き上げて☆

ヨークシャー地方のレシピを集めた小さな本の中に見つけたこのレシピ。ショートブレッドの中にこんなに沢山のフレッシュのハーブを入れるなんて、面白いけれど一体どんな味になるのだろう?半信半疑作ってみたら~ 4つのハーブが複雑に交じり合い、いつものバター香るシンプルが身上のショートブレッドが奥行きのある大人な味わいに生まれ変わっていました。変化球よりシンプルが一番好き、私のようにジンジャーはさておき、チョコレートやキャラメルを入れたショートブレッドには興味はないわというあなたも、このレシピだけは一度試してみる価値ありです。そしてショートブレッドが焼けたら Scarborough Fair を聴きながら紅茶とともに味わってみてください。ハーブの鎮静効果と曲の奏でるあの憂いを帯びたメロディーが深く心落ち着くティータイムをお約束します。

 

第67話 French fancy /Fondant fancy~フレンチファンシー/フォンダンファンシー~

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<French fancy / Fondant fancy  フレンチファンシー/フォンダンファンシー>

あら、なんて小さくて可愛らしい~なんて軽く手を伸ばすと、その強烈な甘さにひとつでノックアウト☆キュートな見た目に反して相当手ごわい「フレンチファンシー」はイギリスの大定番お菓子。小さくカットされたスポンジの上にポチョッと絞られたバタークリーム。その上を甘~いカラフルなフォンダンが覆っています。数種ありますが、メインカラーは日本ではあまり見かけないような元気なピンク色でストロベリー味。上にはホワイトチョコレートが細く絞りかけられています。あとは黄色のレモン味と、茶色のチョコレート味、これらが一つ一つ薄い紙のケースに入れられて箱にお行儀よく並んでいます。これはどこのスーパーにも必ずと言っていいほど並んでいる市販のお菓子。イギリス人なら誰もがちょっとしたノスタルジーと共に「Mr. Kipling」という名がすぐに頭に浮かぶことでしょう。french fancy1

ちなみに「フレンチファンシー」なんて名前ですが、フランス由来のお菓子ではありません。おそらく、ふた口大でお上品に食べられるそのサイズとデコレーションから、エレガントなフランスのプチフールを想像してもらいたい~ということでつけられたのであろうイギリス生まれのイギリススイーツ。その誕生は1976年。女性たちが外に仕事を持つようになり、家でケーキを焼く時間がなくなり、街のベイカリーでパイやケーキを買うようになってきた時代。そんな時に発売されたのが「Mr. Kipling」ブランドのケーキたち。バッテンバーグベイクウェルタルトビクトリアスポンジトリークルタルト。それらは箱に入ってスーパーの棚には並んでいるものの、「Exceedingly good cakes」というキャッチフレーズと共にいかにもミスターキップリングという名のベイカリーで手作りされているような雰囲気を漂わせ、時代のニーズとも相まって店頭に並ぶや否や爆発的な人気となります。20種のラインナップからスタートしたミスターキップリングブランドですが、その当時から不動の人気を保ち続けているのが今日のお菓子「フレンチファンシー」。カラフルな見た目は子供たちのバースデーパーティーから、日々のティータイムのお供にと40年間イギリス家庭のテーブルを彩り続けています。もはやある一定層にはゆるぎない地位を築きながらも、日夜トレンドの動向に目を光らせているスーパーのオウンブランドにも負けまいと、パッケージも数年に一度のペースで代えてくる、商売熱心なミスターキップリング。クリスマスには真っ白の、ハロウィンにはオレンジ色のスペシャルエディションを出し、2012年のダイヤモンドジュビリーにはもちろん、赤白青のユニオンジャックカラーを、2008年からはなんと巨大なバースデーケーキサイズのど迫力フレンチファンシーまで発売しています。ちなみに去年の夏限定のスペシャルエディションはその名も「カクテルファンシー」。 なんでも、メーカーが調べてみたところ、意外にもワインやシャンパンなどと共にフレンチファンシーを楽しむ人が多かったとかで(本当に??)、大胆にも「ピニャコラーダ味、ラズベリーダイキリ味、ピーチベリーニ味」を作ってしまったのでした。そんな今の時代の流れにもフレキシブルに対応するミスターキップリングとは一体どんな人物なの?あるいはどこの町のどんな小さなベーカリーからこんな有名ブランドを作り上げたの?とちょっと気になりますよね。ですが実のところ~ 彼は存在しないのです。Mr. KiplingはRank Hovis Mcdougallという巨大企業が作り出した架空の人物。スーパーでケーキやパイを買うことにまだ慣れていない当時の人たちに、手作り感と親しみを持たせるためにとった戦略だったのです。この戦略はすばらしく功を奏しました。Mr.Kilpingは10年後にはイギリス中で最も大きなケーキブランドとなっていたのですから。イギリスには今でもMr. Kiplingというおじいちゃんが実在すると思っている人も少なくないようですが~。スーパーの棚でにっこり笑っている「Uncle Ben」も、美味しいケーキ作りを手助けしてくれる「Betty Crocker」だって、モデルはいるにしてもやはり販売戦略のための架空の人物、なんだそうです(^^;)。しかしそうは言ってもメーカー側もウイットを効かせ楽しませてくれます。CMにMr.Kiplingの奥さんが登場したり、ホームページのQ&Aコーナーにはこんな質問も。Q:「キップリングさんに会えますか?あるいは写真を見ることができますか?」A:「ミスターキップリングはものすご~くカメラが苦手な上に、今は新商品の開発に忙しくて無理なんです~」。

定番から新しい味まで揃うMr.Kippling シリーズ☆

定番から新しい味まで揃うMr.Kipling シリーズ☆

さてここまで「フレンチファンシー」についてお話してきましたが、これはあくまでMr.Kipkingの商品名。同じように、小さなスポンジケーキをフォンダンでカバーしたケーキはイギリスでは「フォンダンファンシー」と呼ばれます。可愛らしいデコレーションのカップケーキがイギリスで大ブームを起こして以来、カラフルなアイシングを施したビスケットやフォンダンファンシーのようなデコレーションをたっぷり施したキュートなお菓子をよりたくさん見かけるようになりました。歯がき~んとするほど甘いものが大半ですが、それでもまた食べたいなと思うのはヨークシャーにあるティールームBettys のフォンダンファンシー。スポンジの間にはバタークリームとジャムがサンドしてあり、さらにマジパンをのせた上にフォンダンがけなので甘さでは他所のものに引けをとらないのですが、あの可愛らしさについ手を伸ばしたくなるのです。パステルカラーのフォンダンに小花のデコレーション、なんとも優しい雰囲気なものですから。

優しい雰囲気のBettys のフォンダンファンシー☆

優しい雰囲気のBettys のフォンダンファンシー☆

今日もイギリスではきっと沢山のカラフルで可愛らしいケーキたちが飛ぶように売れていっていることでしょう。基本、素朴系ルックスの多いイギリス菓子、その中で目立ってアピールしてくるカラフルスイーツたち。今のイギリス、このメイクたっぷり厚化粧スイーツの甘~いトラップにかからないよう歩くのは結構至難の業かもしれません☆

第68話~Fairy cake, Butterfly cake and Queen cake フェアリーケーキ、バタフライケーキ、クイーンケーキ~

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<Fairy cake, Butterfly cake and Queen cake  フェアリーケーキ、バタフライケーキ、クイーンケーキ >

一度火がつくと、息の長~いイギリスのブーム。カップケーキが流行り始めたころに生まれた赤ちゃんも、もう立派なティーンエイジャー。ここまで来ると一過性のブームを通り越し、もはや定番と化しつつありますが、やはりあのこれでもかとバタークリームを盛りに盛ったカップケーキをイギリス菓子と呼ぶのはどこかためらわれるのは私だけではないはず。カラフルで底抜けに明るいアメリカ育ちのお嬢さん方に、イギリス生まれの控えめで素朴なフェアリーケーキやバタフライケーキたちはたじたじですが、彼女たちこそ生粋のイギリスのカップケーキ。「フェアリーケーキ」はアメリカのカップケーキよりひとまわりサイズは小さく、デコレーションは控えめ。バタークリームではなく薄いアイシングで飾られることが多く、生地もアメリカのものより軽くふんわりとしています。「バタフライケーキ」はフェアリーケーキの上の部分をくり貫いてバタークリームやジャムなどを詰め、先ほどの切り取った生地を半分にカットしてチョウチョの羽のようにアングルをつけて差し込んだもの。どちらも子供たちのバースデーパーティーやおやつの大定番。家庭で楽しみながら作るものでした。それが気づくとハイストリートにはひときわ精彩を放つカップケーキ専門店。屋外のマーケットに出掛けても、人が集まっているのは鮮やかなデコレーションをたっぷり施したカップケーキのストール。なんでも2012年にはイギリスで110,000,000個ものカップケーキが売れたのだとか。

バタークリームたっぷりのカップケーキにはやはり視線を奪われてしまいます☆

バタークリームたっぷりのカップケーキにはやはり視線を奪われてしまいます☆

ところでアメリカのカップケーキももとから派手だったわけではなく、昔は当然シンプルなものでした。中途半端に残ってしまったケーキ生地を陶器のティーカップに詰めて焼いたものだったりしたわけですから。このティーカップに生地を入れてケーキを焼く、というスタイルが最初に文献に登場するのが 「American cookery 」 Ameria Simmon (1796) 著の中の A light cake to bake in small cups というケーキ、これをカップケーキの始まりとする人もいます。また「Seventy five Receipts for Pastry, Cakes and Sweetmeats 」(1828) の中で ‘Cup cake’ という名で最初に紹介したEliza Leslie のものを最初のカップケーキとする人も。個人的にはどちらでもいいな、、なんて思ってしまうのは、前者は前者でemptins と呼ばれるイーストのようなものを膨張剤として使っているので、今のカップケーキとは大分構造が違うし、後者は後者で生地は遠くないものの、カップではなく小さな焼き型で焼くのでこれまたなんか今のカップケーキとは違うような、、、こちらの場合はカップを型としてではなく、材料を計量するためにカップを用いたので「カップケーキ」 と名付けてあるのです。今でこそカップ計量が基本のアメリカベイキングですが、これより以前はイギリス同様、レシピはオンスやパウンド表記が基本だったというから、カップケーキの母より、カップ計量の母のタイトルのほうがすごいかも~もちろん彼女が考え出したのかどうかは定かでないのでなんとも言えませんが。

イギリスのフェアリーケーキはデコレーションも素朴で優しい雰囲気☆

イギリスのフェアリーケーキはデコレーションも素朴で優しい雰囲気☆

アメリカはさておき、話しをイギリスに戻しましょう。イギリスのカップケーキのもととなったのは今もたまに見かける「Queen cake(クイーンケーキ)」と言われています。18世紀には人気を博していたというクイーンケーキは、粉、砂糖、卵、バターがほぼ同量ずつ入るパウンドケーキのようなもの。そこにカランツがやはり同量入ります。昔のものは香り付けにローズウォーターやオレンジラワーウォーター、メースなどが入ることも。この生地を今は大抵カップケーキのような紙のケースに入れて焼くので、見ためはレーズン入りの素朴なカップケーキといった感じです。どうしてこんな地味なケーキがクイーンケーキなんて立派な名前なんだろうと、最初にティールームで見た時に思ったのを今でもよく覚えています。実は18世紀当時はもちろん今のようなフリフリのプリーツの入った紙のケースなどあるはずもなく、ハート型、クローバー型、菱形に、三日月形、とにかく様々な形に作られた型に入れて焼かれていたそうです。大皿に万華鏡のように並べられたいろいろな形のクイーンケーキは、大いにもてはやされたとか。1845年出版のEliza Actonの「Modern cookery for private families」に登場するQueen cakeのレシピによると~ 「・・・bake the mixture in small well-buttered tin pans ( heart-shaped ones are usual ) ~よくバターを塗った小さな金物の型で生地を焼きましょう (ハート型が一般的です)~」。生地はほぼカランツ入りのパウンドケーキ。膨張剤は入らないのでふくらみはそれほどではありませんが、よく撹拌すれば今のフェアリーケーキと変わらない食感のものが出来上がります。

エリザ・アクトンのレシピで作ったクイーンケーキ☆

エリザ・アクトンのレシピで作ったクイーンケーキ☆

ではいつ、クイーンケーキが今のように紙のケースに入れて焼かれるようになり、フェアリーケーキのもととなっていったのか。これには今のカップケーキになくてはならないあの薄い紙のケースが大きくかかわってきます。生地が型にくっついて取れなくなることもなく、ケーキからはがす時にはひだを広げさえすればストレスなしにきれいにはがせるあの素晴らしい発明品。ひだひだのカップケーキケース。あれを発明したのは当時ロンドンで働いていたイタリア人の菓子職人 William Jarrin と言われています。「The Itlalian Confectioner」(1820)、この本の中で彼はその紙ケースの作り方を説明しています。この素敵な発明品はしばらくの間は手作りされていましたが、19世紀半ばには大量生産されるようになり、1890年には様々なバリエーションが登場し大人気となります。そしてクイーンケーキもハート型などではなく今の姿となり、イギリスフェアリーケーキのベースとなっていったというわけです。

ちょうちょのようだからバタフライケーキと呼ばれる訳ですが、妖精の羽と見ればフェアリーケーキとも☆

ちょうちょのようだからバタフライケーキと呼ばれる訳ですが、妖精の羽と見ればフェアリーケーキとも☆

今日は今どきのカップケーキ事情でもお話しようかと書き始めたはずなのに、結局また随分と時間を遡ることになってしまいました。。。少々手も頭も疲れてきたので、この辺りでペンは置き、先ほど焼いたエリザ・アクトンバージョンのクイーンケーキでお茶にでもしようかな 。 皆さんもパソコンや携帯はちょっと脇に置いて、一息お茶タイムにしてはいかが?


第69話 Singing hinny/ Stottie cake~シンギングヒニー/ストッティーケーキ~

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<Singing hinny / Stottie cake  シンギングヒニー/ストッティ-ケーキ>

「Singing hinny (Singin’ hinnie と書くことも)シンギングヒニー」なんだかちょっと愉快な響きの名前ですが、これはイギリス北部、特にNorthumberland や Newcastle辺りの北東部出身のお菓子。お店で買うというより家庭で作るおやつ的存在のお菓子です。見た目は巨大ウエルッシュケーキのようでもありますが、味はもっとずっとシンプル。簡単に説明すると、カランツ入りのスコーン生地を薄くのばしてグリドル(鉄板)で焼いたようなもの。砂糖も入らなければ卵も入らず、甘さといえばカランツからのみ、スパイスも入らないので、焼き付けられたときにできる、香ばしい香りがアクセントといったところでしょうか。おしゃれなフランス菓子を食べ慣れた日本人の舌には素朴過ぎるほどに素朴です。ですがお腹をすかして帰ってくる子供たちやお父さんにとっては、焼きたて熱々にバターをたっぷり塗って、ちょっぴりのお砂糖かはちみつでもたらしたなら、最高のおやつだったのだろうな~そんな想像がふくらむ味でもあります。この辺りでは昔から炭鉱業が大きな産業だったため、そこに働く人々の家庭が多かったのですが、決して高いとは言えない賃金、オーブンを持つ余裕などありません。調理のために火の上に吊り下げることができるのはたった一つのグリドルか鍋。グリドルで簡単に焼ける食事代わりにもなるシンギングヒニーは日々の食生活に欠かせないものだったことでしょう。

焼き立て熱々にバターをたっぷり塗って☆

焼き立て熱々にバターをたっぷり塗って☆

ところでこの愉快な名前の由来ですが、’Hinny’ とはこの辺りの言葉で honey(ハニー)「愛する人・親しい人」を意味する言葉、奥さんや子供たちに呼びかける際にも使う言葉です。そして、’Singing’ は熱せられたグリドルの上にのせられた生地がシューシューいう音がまるで歌っているように聞こえるからとのこと。想像するに~「お母さん、もう焼けた~?」「It’s just singing, hinny. 今、シューシューなっているわよ、ハニー(もうすぐ焼けるわよ)」といったところでしょうか(笑)。

生地をグリドルにのせるとシンギングヒニーが歌いだします(^^

生地をグリドルにのせるとシンギングヒニーが歌いだします(^^

ところで、ノーザンバーランドやニューカッスル周辺の人々が話す言葉は実に独特です。Hinnyとhoneyはまだ似ていますが、この地方の方言はGeordie(ジョーディー)と呼ばれ、お国訛りという域を超えて、もう違う国の言葉のように聞こえる事もあるほど難解。「ジョーディー」が話題にのぼったついでにもうひとつ、ご紹介しておきたいのが「Stottie cake (簡単にStotty とも)」。こちらはケーキと名はつくものの、まったく甘くない大きな平たいパン。’Stott’とはやはりこの辺りの言葉でbounce(弾む)の意味。もともと、残り物の生地を使ってオーブンの一番温度が低い部分でゆっくり焼かれたこのパン、独特のしっかりした歯ごたえがあり、その焼き加減を床に落として弾ませて(!)チェックしていたからこんな名がついたと言われています。20cm以上はある大きな平たい丸いパンで、ハムやpease pudding(この地方名物の乾燥豆を煮てペースト状にしたもの)をサンドして食べるのがご当地風。

ストッティーで作る大きなサンドイッチもこの地方の名物です☆

中央におへそのようにつけられたくぼみが特徴です☆

ジョーディー風に言うと~
Here hinnie lad, here’s ya stottie bait.
「ほら私の可愛い坊や、ランチのストッティよ」

大きなストテッィーで作るサンドイッチもおいしそう☆

大きなストテッィーで作るサンドイッチもおいしそう☆

う~む・・・ジョーディーの習得はどうやら無理そうなので早々に諦めることにして、簡単に出来るシンギングヒニーでも焼いてティータイムにでもしましょうか~。

  1. 薄力粉225gとお塩少々、ベイキングパウダー小さじ1を合わせてボールにふるい入れます。冷えたバターとラード各50gずつを小さくカットして加え、指先をこすり合わせるようにしながら全体をさらさらのパン粉状にします。
  2. カランツ60gを加えざっと混ぜ、牛乳を約100ccほど(あるいは全体がまとまる程度の分量)を加えたら、1.25cm程度の厚さの円形にのばします。熱く熱したグリドルまたは厚手のフライパンに油をうすくひき、じっくり中に火が通るまで両面焼いたら出来あがり。

あつあつにバターをたっぷり塗って召し上がれ☆

第70話 Lardy cake / Dripping cake~ラーディーケーキ/ドリッピングケーキ~

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<Lardy cake/Dripping cake ラーディーケーキ/ドリッピングケーキ>

風変わりな名前のものも多いイギリススイーツの中で『そそられない名前トップ3』 に必ず入ると思われるのが今日ご紹介する「ラーディーケーキ」~ラードのケーキです。名前を聞いただけで、血中脂肪が増えそうな気がしてしまう名前ですがご心配なく、別にバタークリームの代わりにラードクリームがこってりデコレーションされたようなケーキでもなければ、罰ゲーム的なゲテモノでもありません。現地ではお茶のお供に、時には食事にと長い間非常に愛されている存在です。「時には食事にも~」と言ったのはこれがケーキと名はつくものの、見た目も材料もイーストで膨らませた「パン」だから。言ってみればバターの代わりにラードを折り込んだ大きなデニッシュペストリーのようなもの。プレーンなイースト生地を長方形にのばして、ラードを塗りひろげ、ドライフルーツとお砂糖をたっぷり散らして折りたたみます。これを数回繰り返して型に入れて大きく焼き上げるのですが、途中オーブンの中でお砂糖とラードが熱せられてキャラメル化し、その甘いスティッキーなシロップがパン生地に染み込んでいきます。作り手によっては焼きあがってすぐにひっくり返して冷ますと、さらに全体にシロップがまわっておいしくなるのだとか、、、そう考えてみると、あれ、何か美味しそう?なんて思いませんか?それともいかにものハイカロリーぶりにさらにひいてしまっているかもしれませんが(笑)。でもこのハイカロリーと言うのがこのケーキの生い立ちとしては大事なところ。

名前と材料を忘れて食べれば甘くて美味しいデニッシュのよう☆

名前と材料を忘れて食べれば甘くて美味しいデニッシュのよう☆

このラーディーケーキ、都会ではほとんど見かけません。見つけることができるのはイギリスでも限られた地域。Northumberland や Hampshire、そして一番有名なのはなんと言ってもイギリス南西部のWiltshire のもの。というのも理由は明快。ラード=豚の脂、つまり豚の飼育が非常に盛んなところだから。ウイルトシャーは今も良質のハムが作られることで知られていますが、昔は大規模な養豚場に限らず、一般家庭でも豚が飼われており、春夏の間はせっせとえさを与えて太らせ、秋になると、お肉だけではなく、腸から血まで余すところなく加工し、厳しい冬に備えていたそうです。そしてラードは大切な油脂として調理にはもちろんこうしてケーキやパンにも使用していたのです。ラードをたっぷり使ったラーディーケーキは一日中農作業に養豚に体力を使うウイルトシャーの人々の大事なエネルギー源だったのです。ただし、お砂糖もドライフルーツもまだまだ貴重品だった頃は、ラーディーケーキはお祭りごとの際に作られる特別のご馳走、普段はバター代わりにラードをたっぷり塗ったトーストを食べることも多かったのだとか。ちょうどイギリスのノスタルジックフードのひとつ、「Bread and dripping」と似たようなもの。ドリッピング(dripping )とはお肉をローストする際に流れ出る脂のこと。これを溜めておいて、マーガリンのようにパンに分厚く塗っておやつに夕食に食べるのが「ブレッド&ドリッピング」。国内はおろか世界各国からやってくるおいしい食品に溢れる現代、これを好んで食べている人は少ないでしょうが、今より食べ物を大切にしていた頃の古き良き思い出の一つとして話題に登ることがあります。

パン生地の間にたっぷりラードを塗って折り込みます☆

パン生地の間にたっぷりラードを塗って折り込みます☆

さて、ラーディーケーキに話しを戻しましょう。ウイルトシャーのラーディーケーキはレーズン類をはじめオレンジピールなどのドライフルーツがたっぷり入り、さらにミックススパイスなどのスパイス類が加えられることが多いのですが、お隣ハンプシャーのものはドライフルーツが入らず、ノーザンバーランドのものはパン生地を作るときにお水の代わりに牛乳を使い、ドライフルーツはカランツのみのことが多いのだとか。その地方、作り手によってバリエーションは多そうです。イギリスに暮らし始めた頃、マーケットのパン屋さんに並ぶキャラメル状の艶を放つ美味しそうなパンを見つけ、よくラベルを眺めもせず「なになにレディーケーキ?美味しそうだから買ってみよう」と購入。ふむ、ぺたぺたしていて甘くて美味しいけれどちょっとお安めのバターでも使ったのかしら?なんて思って食べたのですが、それがラードを使ったラーディーケーキと知ったのはしばし経ってから(笑)。きちんと知ってからは「美味しいよ~うちの一番の人気商品なんだ」と山積みのラーディーケーキを前に笑顔でおススメされても、買うのはたま~ににしておきました。バターとカロリーは代わらないのに、「何か太りそう~」なんて思っちゃうのだから、やっぱり名前って大事です(^^;)

ラードとお砂糖とフルーツが溶け合いツヤツヤ☆

ラードとお砂糖とフルーツが溶け合いツヤツヤ☆

そうそう、『そそられない名前トップ3』 のもうひとつに挙げたいのは、先ほども登場したドリッピングを使う「Dripping cake (ドリッピングケーキ)」。こちらはイギリス中にバリエーションが存在するようです。ラーディーケーキのラードの代わりにドリッピングを使うフルーツブレッドタイプのもの、通常のフルーツケーキを作るときのバターの代わりにドリッピングを使うケーキタイプのものなどいろいろ。今もスーパーをよく探せばラードと並んできれいに商品化されたドリッピングを見つけることができますが、もともとは日々のローストやシチュー(煮込み料理)を作る際に出た余分な脂をためておいたもの。さぞやダシの効いたケーキやパンになったことでしょう(^^;)。1940年代の食糧配給制度の下、限られた材料でできるだけ効率よくやりくりしてもらおうと様々なアドバイスをのせたリーフレットなどが政府から出されていましたが、その中にこんなドリッピングの上手な利用法というのがあります~「お肉のローストに使ったバットやフライパンなどに残った脂を集めて漉したら、2オンスの脂に対して1パイントの熱湯を注ぎます。冷えて脂が固まったら取り出して、底の汚い部分をこそげとります。これをお鍋に入れて火にかけ溶かし、泡が出なくなるまで熱すると、余分な水分が抜け日持ちするようになるので、お料理はもちろん、ケーキにも使いましょう」。 ドリッピングは熱を加えなければ固形の状態なので、バターのように粉にrub in して(指先でぽろぽろにすること)使えます。そこにお砂糖やドライフルーツ、牛乳を加えて焼くというのが簡単なドリッピングケーキの作り方。でもこれはあくまで物のない時代のドリッピングケーキ。わたしはまだ実物にお目にかかったことはありませんが、今の時代のドリッピングケーキはきっと、ラーディーケーキ同様美味しくなっているはず。これは自分で作らず、いつか巡り会う時のお楽しみにとっておこう。。。

第71話 Bourbon biscuits・Garibaldi biscuits ~ブルボンビスケットとガリバルディビスケット~

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<Bourbon biscuits ・Garibaldi biscuits  ブルボンビスケットと ガリバルディビスケット>

「Bourbon biscuits(ブルボンビスケット)」と聞いて、日本人の頭に浮かぶのはあのスーパーの棚に並ぶ定番のお菓子たち。それは人によってエリーゼかもしれないし、ルマンドかも、はたまたホワイトロリータかも?とにかく人それぞれ。でもイギリス人が頭に思い浮かべるものはただひとつ、チョコレートクリームをサンドした長方形のココア味ビスケット。3×6cm程の長方形のそれは表面に10個の穴とBOURBONの文字。どこのメーカーのものを買ってもほぼ同じ姿をしています。メーカーごとに商品名が必ずつけられている日本のものと違い、個々のビスケット名のほうが優先されるイギリス。定番の10数種ほどのビスケットはどこのメーカーのものを買っても同じ名前で売られています。なので、区別をするとしたら、Crowford’s社のブルボン、M&Sのブルボン、Tescoのブルボン、と言った具合。

表面の10個の穴と刻まれたBOURBONの文字がお約束☆

表面の10個の穴と刻まれたBOURBONの文字がお約束☆

ちなみに先ほどからブルボン、ブルボンと連呼していますが、ウイスキーのバーボンとも同じスベルなので、正確にはブルボンとバーボンの間くらいの発音です。Bourbon biscuitsまたは Bourbon creams とも呼ばれることがありますが、これはビスケットを愛してやまないイギリス人の中でも特に人気のビスケット。長い間、そうかなりの長い間愛され続けています。今80歳過ぎのおばあちゃんのそのまたお母さんの時代から売られているくらいですから。時を遡ること約150年、南ロンドンのBermondseyにあるPeek Freans社のビスケット工場の辺りはその敷地の規模やいつも漂うビスケットの香りから、いつしかつけられた呼び名が「ビスケットタウン」。1857年、James Peek 氏とGeorge Hender 氏によって、はじめDockhead に設立されたこの会社は、1861年に「Garibdi bisucuits (ガリバルディビスケット)」と呼ばれるカランツサンドビスケットや、「Pearl」というイギリス初のソフトタイプのビスケットなどを発売して一躍人気を博し、設立から9年後の1866年にバーモンジーの大規模工場をオープンさせたのでした。ビスケットタウンの名にふさわしく、敷地内には銀行や郵便局はもちろん、消防署、従業員が無料で利用することが出来る病院や歯医者はじめさまざまな福利厚生施設が設けられ、ピークフリーンズ社は従業員の労働および生活環境の向上に努めていたのだとか。1989年に閉鎖された工場跡地には今も歴史的なビスケットファクトリーがそこにあったことを示すブルーのプラークが掲げられています。

どこのメーカーのものを買っても同じ姿という安心感を求めるのがイギリス的だったりします、、、

どこのメーカーのものを買っても同じ姿という安心感を求めるのがイギリス的だったりします、、、

ブルボンビスケットに話を戻しますが~気になるのはその名前の由来ですよね。このブルボンが発売された1910年当初、実は「Creola」の名で世に出ました。その後はっきりした理由は定かではありませんが、もっと響きの良い魅力的な名前にしようと改名されたのが「ブルボン」。諸説存在しますが、かのブルボン王朝にちなんでつけられたと言うのがもっぱらの定説です。

イギリスの定番ビスケットはどれも飽きのこないシンプルさがいいのでしょうね☆

イギリスの定番ビスケットはどれも飽きのこないシンプルさがいいのでしょうね☆

数々のヒット商品を飛ばしたこのメーカー。先ほどもちらりと登場しましたが、中でも有名なのが、ガリバルディビスケット。イタリアの革命家であり、船で世界中を駆け巡り戦ったGiuseppe Garibaldi (ジュゼッペ・ガリバルディ)がイギリスを訪れたことを記念して作られたのがこのガリバルディビスケットなのだとか。 薄い板状の生地の間にびっしりと挟まれたカランツ。切り目が入り、簡単に5つに分けることが出来るようになっています。日持ちし、海の上でも簡単にエネルギーを摂ることができる乾パンをイメージして作られたと言われています。このガリバルディを作り出したのが、ビスケット界では有名なJohn Carr 氏。 ウォータービスケットで有名なスコットランドのCarrs社の一族でもある彼がピークフリーンズ社に入り、このガリバルディと前述のPearlを生み出したそうです。パールのほうは姿を消してしまいましたが、ガリバルディは150年経った今も定番ビスケットのひとつ。Squashed fly biscuits(潰れたハエのビスケット)とか、Flies’ graveyards(ハエのお墓)なんていうひどいあだ名はきっと愛情の裏返し。今もなおティータイムには欠かせないビスケットのひとつです。

ガリバルディは日本で売っているオールレーズンをちょっと薄くしたイメージです☆

ガリバルディは日本で売っているオールレーズンをちょっと薄くしたイメージです☆

他にもピークフリーンズ社はイギリス初とも世界初とも言われるチョコレートコーティングのビスケットや日本でもおなじみのマリービスケットを生み出したメーカーとしても有名ですが、そちらについてはまたの機会にお話しするとして、今日はイギリスビスケットファミリーの長老ガリバルディと日本人にとっては印象的な名前のブルボンビスケットのお話でした。 では今日はこの辺で~ You must be dying for a cup of tea and biscuits now 😉

 

第72話 Bachelor’s pudding ・ Cumberland pudding ~バッチェラーズプディング・カンバーランドプディング~

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<Bachelor’s pudding・Cumberland pudding バッチェラーズプディング・カンバーランドプディング>

「バッチェラーズ(独身男の)プディング」~この名前からどんなプディングが頭に浮かびますか? 手間がかからず簡単に作れるとか、味重視で見た目はそれほどこだわらないプディングとか、そんな感じでしょうか。 これはビクトリア時代にとても人気のあったりんごを使ったプディング。1800年代の料理本によく登場します。多少の違いはあるものの、基本は刻んだりんごとカランツ、パン粉にお砂糖と卵を混ぜて蒸したもの。そこにレシピによって、スエットやバターの油脂類や膨らますための重曹、風味付けのレモンの皮やナツメグなどが加わることも。とにかく全部適当に混ぜてプディングベイスン(容器)に入れて蒸すだけなので、準備はとっても簡単。実際のところ、この不思議な名前の由来は謎なのですが、その当時から持ち運びも出来るお手軽なミニ簡易オーブンが「Bachelor’s oven( =独身男性のオーブン)」と呼ばれていたことなどを考えても、やはり、あまり料理をしない独身男性でもお手軽に作れるプディング~そんな意味合いだったのかなと思います。

これはゴールデンシロップも加えたちょっぴり今どきなバッチェラーズプディング☆

これはゴールデンシロップも加えたちょっぴり今どきなバッチェラーズプディング☆

同時代のプディングに、このパッチェラーズプディングとよく似たものがもうひとつあります。それは「Cumberland pudding(カンバーランドプディング)」、あるいは「Duke of Cumberland’s pudding」と呼ばれるもの。作り方も材料もほぼ一緒と言っていいほどそっくり。メインはパン粉にりんご、卵にお砂糖、カランツは入ったり入らなかったり。名前以外何が違うのかよく分かりませんが、とにかくカンバーランド(イングランド北西部、湖水地方の辺り)では、このりんごとパン粉の入ったスチームプディングがこう呼ばれていたようです。カンバーランドというと、カンバーランドラムニッキーやカンバーランドラムバターなどラム酒やスパイスをたっぷり使ったレシピを想像しますが、これはさにあらず、材料から想像できるとおり実にシンプルな一品です。

生地は材料を全て混ぜるだけ☆スエット入りバージョンのカンバーランドプディング☆

生地は材料を全て混ぜるだけ☆スエット入りバージョンのカンバーランドプディング☆

さて、独身男性でも作れるプディングならきっと私でも作れるわ~とお思いになる方も多いはず。そこで今日はスエットなど日本では手に入りづらい材料を使用しない、Mrs. Beetonのレシピをご紹介しますので、是非ヴィクトリアンなお味をご賞味あれ。

1241 BACHELOR’S PUDDING
Ingredients- 4 oz.of grated bread, 4oz. of currants, 4oz. of apples, 2oz.of sugar, 3 eggs, a few drops of essence of lemon, a little grated nutmeg.
Mode- Pare, core, and mince the apples very finely, sufficient, when minced to make 4 oz.; add to these the currants, which should be well washed, the grated bread, and sugar; whisk the eggs, beat these up with the remaining ingredients, and, when all is thoroughly mixed, put the pudding into a buttered basin, tie it down with a cloth, and boil for 3 hours.

 <材料>パン粉4オンス(1オンス=約28g)、カランツ4オンス、 りんご4オンス、砂糖2オンス、
卵3個、 レモンエッセンス 数滴、おろしたナツメグ少々
<作り方>りんごの皮をむき、芯をとって細かく刻み、4オンス分用意します。それをよく洗ったカランツとパン粉、お砂糖と合わせたら、溶いた卵と残りの材料も加えて、よく混ぜ合わせます。バターを塗ったプディングベイスンに入れたら、布で包んで3時間茹でましょう。
(Mrs Beeton’s Household Management 1861 より)

 

ホカホカプディングに温かいカスタードをたっぷりかけていただきます☆

ホカホカプディングに温かいカスタードをたっぷりかけていただきます☆

プディングベイスンは陶器でできたどんぶりのような器のこと。ふきんで包まなくとも、オーブンペーパーやアルミホイルなどできっちり蓋をして、蒸し器で蒸すか、器の半分までお湯に浸かった状態でお鍋で蒸し茹ででもOKです。でも3時間って、、、どこがお手軽?なんて思ってしまいますが、なんでも3分で出来てしまうこのご時世、たまには、効率ばかりを求めついついセカセカしてしまう心と頭を解放し、お鍋から上がる湯気をぼ~っと眺める~そんな時間を持つのも悪くないのかも知れません。

 

 

 

第73話 Cumberland rum nicky・ Cumberland rum butter~カンバーランドラムニッキー・カンバーランドラムバター~

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<Cumberland rum nicky ・ Cumberland rum butter  カンバーランドラムニッキー・カンバーランドラムバター>

カンバーランドとはイングランド北西部に存在した長い歴史を持つカウンティの名前。今では隣接するWestmorlandやLancashire、Yorkshire の一部と統合され「カンブリア」とカウンティ名は変わってしまいましたが、広く海に面した地の利を生かし昔から貿易で非常に栄えた土地でした。その貿易がもたらす異国の産物はカンバーランドの食に多くの影響を与え独特な食文化が生まれたため、カンバーランドの名は今も数々のお菓子に、料理に残っています。

cumberland rum nicky 1

ラティス模様が特徴のカンバーランドラムニッキー☆

17世紀から18世紀にかけてカンバーランドのWhitehaven の港には西インド諸島やカリブ海周辺の島々から大量の砂糖やスパイス、ラム酒などエキゾチックな品々が次から次へと運び込まれました。それらは当時としては高価な食材でしたが、そこに働く人々は給金の代わりに現物支給を受けることもあり、イギリスにしては珍しく古くからジンジャーやシナモン、ラム酒などを使った調理が浸透していったのです。中でも有名なのが今日ご紹介する「カンバーランドラムニッキー」。ペストリーを敷いたパイ皿に、フィリングとして入れられるのはまさに常夏の彼の地から運び込まれた食材たち。デーツにステムジンジャー(しょうがのシロップ漬け)、褐色の砂糖にラム酒。そして上にかぶせるペストリーをラティス状にするのが大きな特徴。その名前の由来は諸説ありますが、よく聞くのは船乗りたちがドライフルーツを漬け込むのにラム酒をよくくすねていた(nick=盗む)からだとか、このタルトを作るのに必要な材料を船から勝手に持ち出していたからだとか、、、。このカンバーランドラムニッキーの他にもカンブリア地方には似たようなお菓子として、「Cumberland square(カンバーランドスクエア)」や「Cumberland currant cake (カンバーランドカランツケーキ)」といったペストリーでラム酒やスパイスの効いたドライフルーツをサンドするお菓子が多く存在します。貿易云々にかかわらず、りんごや梨などフレッシュのフルーツを豊富に使えるイギリス南部と比べ、北部に行けば行くほど、1年を通してドライフルーツを大量に使ったものが多くなります。それもこの辺りのお菓子の特徴のひとつと言えるでしょう。

たっぷりのデーツとジンジャー、そこにラム酒の風味が加わって・・・

たっぷりのデーツとジンジャー、そこにラム酒の風味が加わって・・・

そしてカンバーランドとラムと言えば、忘れてはならないのが「カンバーランドラムバター」。柔らかくした(あるいは溶かした)バターにたっぷりのブラウンシュガー、そしてラム酒を混ぜたもので、そこに大抵ナツメグでアクセントを加えてあります。パンやクラッカーに塗って食べたり、別名「Hard sauce(ハードソース)」 と呼ばれることがあるようにブランデーバター同様、クリスマスプディングやミンスパイに添えることも。これもやはりカンバーランドの港が貿易で潤っていた18世紀頃に生みだされた1品ですが、今もなおWhitehaven周辺や湖水地方では瓶入りのラムバターが売られています。ブランデーバターは基本的にクリスマスシーズンに登場するものですが、これはトーストやスコーンなどに塗ったりと日常的に1年を通して楽しむもの。ただし歴史的に見ると、このラムバター、もともとは赤ちゃんのChristening(洗礼式)と深く関わりのあるものでした。現在も地域によっては続いているそうですが、カンブリア地方には、洗礼式のために訪れてくれた人々にラムバターとオーツケーキを振舞うという慣習があるそうです。受け皿と蓋付きの専用の器に入れられたラムバター、食べ終えた客人はその中にシルバーコインを代わりに入れて返します。時には一度入れたコインをその器の中でひっくり返してわざとべとべとにすることもあるのだとか。ラムバターで汚れた器に貼り付いた沢山のコインにはその赤ちゃんが将来お金に困る事がないように、という願いが込められているのだそうです。また、一番最初にそのラムバターの器にスプーンを入れた女性は次に妊娠する、なんて言い伝えも。他にはこんな話もあります~この地域では昔、生まれたばかりの赤ちゃんの頭をラム酒で清める風習があったことから、英語の ”Wetting the baby’s head”(「赤ちゃんの誕生を祝杯を挙げて祝う、酔う」)という表現が生まれたのだとか、、、。

このカンバーランドラムバター、お砂糖が結晶化するので冷蔵保存はNGだそう☆

このカンバーランドラムバター、お砂糖が結晶化するので冷蔵保存はNGだそう☆

もちろん、ラムニッキー同様、ラムバター誕生物語も多数存在。「ある霧の朝、ラムとバターと砂糖を密輸しようとしていた海賊が、沿岸の警備の目を逃れて逃げ込んだ洞窟、その中で潮が満ち閉じ込められてしまったのですが、その積荷のラムとバターと砂糖を混ぜ合わせたもので生き延びられた」というストーリーや、「ある農婦が浜に打ち上げられたラム酒の樽を持ち帰り、食品庫にしまっておいたところ、実は樽にひびが入っており、下においてあったバターと砂糖に染み込んで、偶然美味しいラムバターができあがっていました」というストーリー、はたまた「南方からの食料を詰め込んだ貿易船がある日嵐にあい、積荷の中でラム酒の樽が割れてしまい、一緒に積んであった砂糖やバターと混ざり合って出来たのがラムバターだった」などなど。とにかく沢山ありますが、いずれもどこそこのシェフが~とか、どこそこのお菓子屋さんが~的な説ではなく、「嵐や海のおかげで偶然にできた産物」という点で共通していますね。cumberlanad rum nicky 4

ラム酒が香る「カンバーランドラムニッキー」と「カンバーランドラムバター」。今でこそ世界中のものがなんでも簡単に手に入る時代ですが、17~18世紀のイギリスの人々にとっては太陽の光溢れる彼の地への憧憬がさらなるスパイスとなり、これらを一層美味しく感じさせてくれたことでしょう。かく言う私もラム酒の香りなんて慣れているはずなのに、「イギリス菓子」として口にすると、なんだかとても新鮮な気がしてしまうのですから不思議なものです(^^)

第74話 Grasmere gingerbread~グラスミアジンジャーブレッド~

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<Grasmere gingerbread グラスミアジンジャーブレッド>

イギリス北部カンブリア地方の中でも風光明媚なことで知られる湖水地方。鮮やかな緑、点在する美しい湖、その牧歌的な風景はまさにベアトリクス・ポターが描いたピーターラビットの世界。WindermereにAmbleside、観光客を惹きつける場所は多くありますが、詩人ウイリアム・ワーズワースが暮らし、終の棲家としたGrasmere は特に人気の地。ワーズワースが賛美し謳ったその自然を一目見ようと多くの人が足を運びます。そんなグラスミアの名物が今日ご紹介する「グラスミアジンジャーブレッド」。イギリスには地方地方ごとに異なるジンジャーブレッドが数多く存在するのですが、大抵はしっとりケーキタイプか、かりっとしたビスケットタイプ。ですがここグラスミアで有名なのはどちらにも当てはまらないユニークなタイプ。薄い板状、ケーキとビスケットの中間と表現される食感、ジンジャーの風味もしっかり効いています。そしてこのジンジャーブレッドにさらにスペシャル感をプラスしているのがそのショップ。「Grasmere Gingerbread」という名でジンジャーブレッドを販売することが出来るのはグラスミア村でもただ1軒、「Sarah Nelson’s グラスミアジンジャーショップ」だけなのです。

湖水地方特有の白い壁の小さな可愛らしいおうちです☆

湖水地方特有の白い壁の小さな可愛らしいおうちです☆

ワーズワースも眠るSt. Oswald’s 教会に隣接する小さなコテージに、このジンジャーブレッドの生みの親、セーラ・ネルソンが引っ越してきたのは1852年頃のこと。そして1854年に彼女はこのジンジャーブレッドを考案し、家の前に置いた小さなテーブルで村人や旅人に向けて売り始めたと言われています。それから160年以上、レシピは大切に守られ、今も当時と同じ製法と同じ場所で作り続けられています。その気になるレシピはトップシークレット、アンブルサイドの銀行の金庫の中に大切に保管されています。お店でも配合を知っているのはたった一人なのだとか。今では全国的に有名になり、毎日行列が出来るほどの繁盛店ですが、オリジナルのレシピと手作りの味を守り続けるために、数多ある店舗拡大の誘いを断っているそうです。またもうひとつの理由はとにかく出来立てを食べて欲しい、その思いからなのだとか。他のジンジャーブレッド類は長持ちするものが多いため、これもそのひとつと思われてしまうそうなのですが、セーラ・ネルソンのグラスミアジンジャーブレッドに関しては焼きたてが一番で、その味はあまり続かないのだそう。本当の味を知りたければお店に来て下さいね、と言うことのようです(^^)

薄くてほろりとした表面、ジンジャーの風味に紅茶がまたすすみます☆

薄くてほろりとした表面、ジンジャーの風味に紅茶がまたすすみます☆

ところで、グラスミアでは昔、ジンジャーブレッドは別名「Rush bearer’s cake」とも呼ばれていました。今でこそ「グラスミアジンジャーブレッド」というとこのセーラ・ネルソンのショップの板状のものをさしますが、もともとこの地域にはしっとりしたケーキタイプのジンジャーブレッドもビスケットタイプの薄いものも両方存在していました。そしてこのジンジャーブレッドはセーラ・ネルソン一家も眠る隣のSt.Oswald’s 教会と深く関わっています。この教会では19世紀半ばまで床のイグサを運んできてくれる人’Rushbearers’(大抵子供たちだったようですが) への給金としてジンジャーブレッドが渡されていました。当時の教会の床は土がむき出しのまま、その上に香りの良いイグサを敷いているだけだったのです。この風習は教会の床が石に敷きかえられると同時に消えていきましたが、今もお祭りの際にイグサと花で教会を飾る風習として残っています。現在も毎年夏に行われる「Rushbearing」のお祭りでは、「rushmaidens」と呼ばれるイグサ色のドレスを身にまとった6人の少女がイグサと花で飾られた布を広げて村を行進します。そして礼拝の後はこの日のためだけに作られるしっとりタイプのジンジャーブレッドが振舞われるそうです。

いろいろなグラスミアジンジャーブレッドのレシピが残っています☆

いろいろなグラスミアジンジャーブレッドのレシピが残っています☆

またワーズワースの妹ドロシーの1803年の日記にはジンジャーブレッドに関するこんなことが記されています~

‘Intensely cold, William had a fancy for some ginger bread. I put on Molly’s cloak and my Spenser, and we walked towards Matthew Newton’s. I went into the house. The blind man and his wife and sister were sitting by the fire, all dressed very clean in their Sunday clothes, the sister reading. They took their little stock of gingerbread out of the cupboard, and I bought 6 pennyworth. They were so grateful when I paid them for it that I could not find it in my heart to tell them we were going to make gingerbread ourselves. I had asked them if they had no thick – “No,” answered Matthew, “there was none in Friday, but we’ll endeavor to get some.” The next day the woman came just when we were baking and we bought 2 pennyworth.’     ~ on January 12 Grasmere journal Dorothy Worsworth~

ジンジャーブレッドが大好きだったウイリアムとドロシー、1月のある寒い夜、明日ジンジャーブレッドを焼こうと相談しますが、我慢できずにコートを羽織ってジンジャーブレッド屋に買いに出掛けていきます。二人は厚いタイプのジンジャーブレッドが欲しかったのですが、その日は薄いタイプのものしかもう残ってなく、それを買って家へ帰ります。で、翌日ジンジャーブレッドを焼いていると、昨晩のジンジャーブレッド屋さんが厚いタイプのものを持ってきてくれました~みたいな内容です。よほど食べたかったのでしょうね(^^)ワーズワース兄妹の微笑ましい日常のひとコマがよく伝わってきます。

セーラネルソンのレシピを知る術はありませんが、昔のレシピ本に残る他のグラスミアのジンジャーブレッドの材料はこの辺りで採れる安価なオーツを細かく挽いたもの、近くのWhitehavenの港から入ってくる精製されていない褐色の砂糖に、ジンジャーなどのスパイスとどれも手に入りやすいものばかり。ワーズワース兄妹に限らず、地元で相当愛されていたのでしょう。ワーズワース兄妹が焼いたジンジャーブレッドもさぞかし美味しかったのでしょうね、おそらく前日買えなかったスティッキーな厚いタイプで~なんてなんだか想像もふくらんでしまいます~

 

 

第75話 Bath buns・ Sally Lunn~バースバンズ・サリーラン~

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<Bath buns ・ Sally Lunn バースバンズとサリーラン>

イギリス南西部にあるヒストリックシティー「Bath(バース)」。溢れる世界中からの観光客と車さえいなければ、その風格あるジョージアンの建築物と街並みはまるで数百年前にタイムトリップしたよう、街ごと世界遺産に登録されているのも納得の美しさです。そしてこの街を最もバースたらしめているのはローマ人が築いた浴場「Roman Bath(ローマンバス)」の存在。ジェーン・オースティンも味わっていたかもしれないその温泉は、今も絶えることなくこんこんと湧き出ています。温泉を味わう? そう、バースではこの鉱泉が非常に体に良いと健康のために広く飲まれていたのです。このローマンバスの隣には18世紀に上流階級の社交場として建設されたPump room(パンプルーム)があり、そこでは今もその鉱泉を飲むことが出来ます(良薬は口に苦し、お味のほうは錆びた鉄釘を煮出したような、、そんなお味ですが~ )。

おしゃれに流れ出る温泉のそのお味は・・・

おしゃれに流れ出る温泉のそのお味は・・・

さて、この体に良いという温泉の湧き出る保養の地には、優雅な社交の場を求める層だけでなく、病を癒しに来る人たちも多く集まりました。そして病院や療養所ができ、そこには当然医師の姿も。そんな医師のひとりWilliam Oliver氏(1695-1764)が今日のテーマ「Bath buns(バースバンズ)」の生みの親。カランツとシトラスピールが入ったソフトな小型の丸いパンで、シロップが塗られたつやつやの表面にはパラパラとあられ糖がのっています。今ではバースに行かずとも、ホットクロスバンズなどと並んでスーパーでも見かけることもある、どちらかというとお茶のお供に向いていそうな甘いパンなのですが、もともとはOliver医師が自分のリュウマチ患者のために、消化器官を整えると言われているキャラウェイシードをたっぷり入れた栄養価の高いパンをと、考案したのがはじまりだったそう。ですから当時はドライフルーツではなく、甘いキャラウェイシードのコンフィが使われていました。キャラウェイシードを何度も糖液に漬けて作るという手間の掛かるコンフィ入りのバースバンズ、聞いただけでもう美味しそうですね。ですが残念ながら今はバースバンズと言えばカランツとシトラスピール入りのものを指し、キャラウェイ入りは見ることはありません。それはそれで美味しいし、人気のバース名物ではあるのですが。

ツヤツヤの表面にあられ糖(時にはカランツも)のトッピングが今のバースバンズの特徴です☆

ツヤツヤの表面にあられ糖(時にはカランツも)のトッピングが今のバースバンズの特徴です☆

それにしても、いつの間にバースバンズにこんな変化が起こったのでしょう。そのきっかけのひとつとなったのが、1851年のロンドン万博。リフレッシュメントとして、お茶やお菓子などが販売されたのですが、その中のひとつとして人気だったのが「Bath buns」。記録によるとなんと5ヵ月で934,691個も売り上げたというのですから驚き。ただこれ、バースのバースバンズを基にしたとは言え、実際には他所で作った大量生産もの。バターの代わりにラードを使い、キャラウェイシードの代わりにドライフルーツを使った安価バージョンで、そこから当時は「London Bath buns」あるいは「London buns」と呼ばれたそう。バースバンズの変化はロンドン万博の影響も大分大きそうです。話のついでにもうひとつ、ロンドン万博のリフレッシュメントの販売量で興味深かったのが、紅茶とコーヒー。コーヒーが14,299lbsに対して、紅茶は1,015lbsと10分の1以下。1850年代の紅茶はまだまだ高級品だったのかも知れませんが、意外な大差に思わず言及してしまいました(^^)。ではおまけのおまけで、ほかにロンドン万博で売られていたお菓子にはどんなものがあったかというと~「Banbury cakes」「Pound cakes」「Victoria biscuits」「Rich cakes」などなどとなっています。

バースのホテルでのアフタヌーンティーに登場したお上品なバースバンズ☆

バースのホテルでのアフタヌーンティーに登場したお上品なバースバンズ☆

さて、バースにはもうひとつ有名なパンがあります。それが「Sally Lunn(サリーラン)」。バースの歴史ある街並みの中でも人が集まる一際古い小さな建物を見つけたら、きっとそれはこのサリーランの元祖を名乗る店「Sally Lunn’s house」。大きなふわふわのブリオッシュのようなそのパンは、大きなくくりではバースバンズのひとつではあるのですが、前述のOliver医師が作ったものとは別物で、1680年にフランスから亡命してきたSolange Luyon という女性が作り始めたものだと言われています。フランスでのお祭りごとの際に彼女が作っていたパンを元にしたと言うそれは、バターや卵を使ったリッチな口当たりに当時あっという間に人気になったのだとか。このサリーランズハウスは地下が小さなミュージアムになっており、彼女が使っていたというオーブンや昔のキッチンの様子を垣間見ることが出来ます。また1階のティールームはサリーランズのチーズトーストや、クロテッドクリーム&ジャム添えなどがいただけるので狭い店内はいつも大繁盛。そうそう、サリーランの名前の由来ですが、Solange Luyonという名が皆うまく発音できなくて、いつの間にかサリーランと呼ばれるようになったそうです。~というのがひとつのお話し。

サリーランはあっさり味でビッグサイズ。お茶というよりお食事向きかな☆

サリーランはあっさり味でビッグサイズ。お茶というよりお食事向きかな☆

ただこの説には首をかしげる人も実際のところ多くいます。「サリーラン」という名のパンのレシピは1800年代のレシピ本にも多く残されているのですが、Solange Luyonという女性の存在は、このお店となった建物を1937年に今の持ち主が買い取り、古い戸棚から彼女の手書きのレシピを発見したと言いはじめるまでは一切文献にも残っていないらしいのです。それまでは「サリーラン」の由来はフランス語で太陽と月を意味する ’Soleil et Lune’ が訛ったもので、表面の黄金色の焼き色と、中の生地の白さとの対比からきていると言われていました。さてさて、他にも諸説あるのでサリーランの出生の真相は闇の中ですが、しばらく消えていたサリーランがこのお店のおかげで復活し、バース観光ついでに食べられるようになったのですから、よしとしましょうか。
~こんなところで、バースバンズのお話しはおしまい、としたいところですが実はオリバー医師のバースバンズにはちょっとした続きがあったりします。それはまた次の機会にでも。。。

 


第76話 Bath Oliver ・ Abernethy biscuits ~バースオリバー・アバネシービスケット~

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<Bath Oliver・Abernethy biscuits バースオリバー・アバネシービスケット>

イギリスでチーズのプレートをオーダーすると必ずと言っていいほど、添えられるのがチャツネとセイボリーのビスケット(甘くないクラッカーのようなもの)。今日のテーマ「バースオリバー」はそんなセイボリービスケットのひとつ。軽い食感と、他を邪魔しない色白でシンプルな味と姿はチーズに最適と、イギリス中で広く親しまれています。

イースト発酵のバースオリバー、ちょっと面倒だけれど手作りもたまになら☆

イースト発酵のバースオリバー、ちょっと面倒だけれど手作りもたまになら☆

名前からご想像いただけるように、イギリス南西部の世界遺産の街バースの生まれのこのビスケット、1750年頃に考え出されたと言うからもう齢260を超えるビスケット界の大長老です。生みの親は以前ご紹介したバースバンズの父 William Oliver医師。Cornwall 生まれの彼がバースに移り住んだのが1728年、33歳のときのこと。それから医師として成功を収める傍ら、ベイキング好きが高じて美味しいバース名物をいくつも作り出してくれた~わけではなく、自ら抱える患者さんの治療の一環として消化を助ける食品を考案する中で生まれたのがバースバンズであり、バースオリバーなのです。ただし、最初に作ったバースバンズは卵やお砂糖、バターのたっぷり入ったリッチなパン、患者さんの受けも良かったのですが、気づくとみるみる患者さんたちが太っていくではないですか。これではいけないと、次に考案したのがもっとシンプルでカロリーの低い「バースオリバー」だったのです。イーストで発酵させるヘルシーで軽いビスケットのレシピは、オリバー医師の死後、お抱え御者のMr.Atkins に小麦粉といくらかのお金と共に残されます。商才のあった彼はバースに早速店を構えて バースオリバーを売り出し、瞬く間に大金持ちになったのだとか。現在そのレシピはJames Fortt氏の手に渡り、Fortt’s Original Bath Oliver としてイギリス中のスーパーの棚にのっています。

どうしてもチーズが欲しくなるバースオリバーは果たしてヘルシーなのか、、、

どうしてもチーズが欲しくなるバースオリバーは果たしてヘルシーなのか、、、

さて、スーパーのビスケット売り場の棚でバースオリバーを見つけたら、もうひとつ探してみてもらいたいのが、どこか垢抜けない赤いタータンチェックの袋に包まれた「アバネシービスケット」。どんどん洒落っ気を増している他のビスケットたちには染まらず、ずっとこの素朴さを保ってもらいたいとひそかに願っているのですが~そんなことはさておき、このビスケットはそのチェックのパッケージから想像がつくようにSimmers というスコットランドのメーカーにより作られています。

Simple is best な美味しさのアバネシービスケット☆

Simple is best な美味しさのアバネシービスケット☆

南のバースから一気に北へ飛びましたが、バースオリバーと非常に似た経歴の持ち主。このアバネシービスケットの生みの親 John Abernethy氏(1764-1831)は、やはり医師。彼には病気の多くは消化器の不具合によって生じるという確固たる自説があり、消化を助けるキャラウェイシードを入れたビスケットを考案したのでした。バースオリバーと違うのはお砂糖や卵が入った甘いビスケットになっている点。 Dr.Abernethy のオリジナルのレシピと言われているものを見てみると~

1quart of milk, 6 eggs, 8 ozs of sugar, 1/2 oz of caraway seeds, with flour sufficient to make the whole of the required consistency. They are generally weighed off at 2 ozs each, moulded up, pinned and docked, and baked in a moderate oven.

どうせ手作りするならキャラウェイシード入りで☆

どうせ手作りするならキャラウェイシード入りで☆

バターなどの油脂類はなしで卵やお砂糖がたっぷり、キャラウェイシードも入っていますね。一方、現在市販されているSimmers のアバネシービスケットの原料を見てみると~卵はなしで、代わりに植物油脂入り、キャラウェイシードも入っていないようです。この現代バージョンは消化を促す効果は期待できなさそうですが、リッチティー(日本のマリービスケットのようなもの)ほど固くなく、ショートブレッドほどリッチすぎず、マクヴィティーのダイジェスティブビスケットほどラフすぎないそのちょうどよさが長年愛されている理由でしょうか。ちなみに、アバネシービスケットと言えば、Simmers社、そしてスコットランドにはAbernethy という町もあるため、すっかりスコットランドのビスケットというイメージですが、Dr. Abernethy 自身はロンドン生まれのイングランド育ち。当然アバネシービスケットを考案したのも、イングランドで。実はイングランド生まれのビスケットだったりするのはご愛嬌。。。今日はバースオリバーとアバネシービスケットという、共に医師によって生み出されたイギリスの元祖ダイジェスティブビスケット(Digestive=消化を助ける)のご紹介でした。

 

第77話 Digestive Biscuits ~ダイジェスティブビスケット~

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<Digestive biscuits ダイジェスティブビスケット>

ダイジェスティブビスケットと言えば、真っ先に頭に浮かぶのが「McVitie’s (マクビティー)」。イギリスを越え世界中で愛されている日本でもおなじみマクビティの大定番商品。適度な噛み応えと控え目な甘さ、ほんのり感じる塩分も手伝って、ついもう一枚と手が伸びてしまいますが、あの美味しいレシピを考え出したのが、Alexander Grant という名のスコットランド北部の海沿いの町 Forres 生まれの見習い職人。

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イギリスマクビティのダイジェスティブは大きくて食べ応え充分☆

当時マクビティーに勤めはじめて4年という彼がこのビスケットを生み出したのが1892年のこと。当初の名前は「Homewheat digestive biscuits」。ビスケットの原料には輸入小麦粉を使うのが一般的だったその時代、国産小麦をメインに使用することにこだわった、というのがその理由だったとか。 その後、Homewheat は抜け落ち、シンプルに「Digestives」と改名されますが、ダイジェスティブとは正確にはどういう意味なのでしょう?Digestive=消化を助ける。でも全粒粉を使ったら、栄養や食物繊維は豊富でも、消化には余計に時間がかかりそうでは?なんて思ってしまいますが、実は消化を助けるのは胚芽入りの小麦粉のほうではなく、膨張剤として加えられたベイキングソーダ(重曹)のほう。大量に加えられる重曹が消化を促し、胃を落ち着ける役割を果たすから~とこの名がつけられたそうです。~とくると、思い出すのが、以前登場した医師考案の「バースオリバー」や「アバネシービスケット」。あれらも消化を助けるという意味で考え出されたので、ダイジェスティブビスケットと位置づけられていました。ただ実際のところマクビティのものに関しては、調理過程で重曹の成分は変化し消化を助ける力は残っていないそうなので、本来の意味のダイジェスティブビスケットと言えるのか、、。まぁ、精製された小麦粉を使うよりは腸の動きを活発にしてはくれそうですし、重曹の働きがないことが判明した後も、誰もあえて指摘はしないようで名前もそのまま使われています。

マクビティの以外のダイジェスティブも売られていますが、シェアはダントツNO.1 ☆

マクビティの以外のダイジェスティブも売られていますが、シェアはダントツNO.1 ☆

ところで、このマクビティブランドの生みの親 Robert MacVitie がスコットランドに生まれたのは1809年のこと。そして1830年に父親Williamと共にベイカリーをオープンしたのがMcVitie’s の始まりといわれています。その後ビスケット需要の飛躍的な増加に伴い、エディンバラからロンドンへとファクトリーを拡大し、1925年に発売したチョコレートダイジェスティブもオリジナルを越える人気を獲得、年間80,000,000パックも国内で売れているそう。後にイギリス国王となったジョージ5世や、エリザベス女王のウェディングケーキ作りに携わるという名誉も賜り、名実共にトップビスケットブランドへと成長します。現在は Jacob’sや Carr’s、Crawford’sといった老舗 ビスケットメーカーと共にUnited Biscuits 社という巨大ビスケットメーカーの傘下に入っていますが、リッチティーやホブノブと言った国民的ビスケットをはじめ、主力商品はどれももはやイギリス人のステイプル。チョコレートダイジェスティブは、イギリス人のdunk して(紅茶に浸して)食べたいビスケットのナンバー1に選ばれています。

チーズケーキの土台としても良く利用されますが、チーズケーキ味のダイジェスティブも売っています☆

チーズケーキの土台としても良く利用されますが、チーズケーキ味のダイジェスティブも売っています☆

そしてどれだけ国民に愛されてきたかの証拠が、2009年のダイジェスティブビスケットのリニューアル事件(?)。飽和脂肪酸を減らそうというのがメイン目的だったようですが、その時のバッシングは相当なもの、オリジナルの味を愛する消費者たちが反対キャンペーンを張り、マクビティー側もとうとう根負け、オリジナルの味が復活するという騒動が、、、。ある調査によると~過去1年にビスケットを買ったイギリス人は99%、トイレットペーパーを買ったイギリス人は95%だとか、、、嘘か信か、いずれにせよイギリス人のビスケット好きをうまく表現していることには間違いありません(でもトイレットペーパーを買わない残り5%の人って !?)。マクビティ以外のメーカーでも、スーパーのオウンブランドはじめダイジェスティブビスケットは製造されていますし、Huntley & Palmersなど、マクビティより以前にダイジェスティブビスケットという名で商品を発売したメーカーもあるようですが、やはりダイジェスティブビスケットと言えばマクビティ、マクビティと言えばダイジェステイブ、イギリス人の生活になくてはならない存在のようです。Hobnobs にRich Tea、Jaffa cakes に Ginjer Nuts、他にも語りたいマクビティビスケットは沢山ありますが、また長くなってしまいそうなので今日はこの辺で~Have a nice cup of tea with McVitie’s digestives !

 

第78話 Scotish gigerbreads ~スコティッシュジンジャーブレッド~

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<Scotish Gingerbreads (Parlies, Perkin and Paving stone)  スコットランドのジンジャーブレッド(パーリー、パーキン、ペイビングストーン)>

今日のお題はスコットランドのジンジャーブレッド。これまで湖水地方の「グラスミアジンジャーブレッド」やコーンウォールの「コーニッシュフェアリング」、ヨークシャーの「パーキン」やクリスマスによく登場する「ジンジャーブレッドマン」などなどさまざまなジンジャーブレッドが登場しましたが、考えてみたら実はイギリスで一番一般的なしっとりスティッキーなスポンジタイプのジンジャーブレッドがまだではないですか。~と言いつつ、今日取り上げるのはまたも王道はずし、 ちょっと珍しいスコットランドのジンジャーブレッドたち。

お酒にも合うジンジャーブレッド「パーリー」☆

お酒にも合うジンジャーブレッド「パーリー」☆

筆頭は「Parlies」またの名を「Parliament cakes」。ケーキと名はつきますがこれはビスケットタイプ。ジンジャーが強めに効いたカリッとしたジンジャーブレッドです。丸く焼くこともありますが、基本は四角に薄く伸ばして切り目を入れて焼くスタイル。冷めればパリンとそのラインに沿って折ることができます。「パーラメントケーキ」が縮んで「パーリー」ということらしいのですが、「議会のケーキ」なんてちょっと変わった名前ですよね。なんでも18世紀後半スコットランド議会のメンバーにとっても人気のジンジャーブレッドだったからというのがその名の付いた理由だとか。エディンバラのPotterrow にMrs. Flockhart という婦人が営むよろずや兼居酒屋があったのですが、そこはスコットランドの議会メンバーはじめ有名な銀行家や高官、著名な紳士たちのたまり場となっており、その中にはSir Walter Scott のお父さんも含まれていたとか。そんなことからこのMrs.Flockhart 、スコットの「Waverly」という小説にこっそり登場していたりします。そんな彼女が店を訪れた紳士たちにいつもまず最初にスコッチやブランデーと共に供したのがこのビスケット。彼らの間で非常に人気があったためこのジンジャーブレッドは次第に「parliament cakes」「Parlies」と呼ばれるようになったのだとか。

丸型もありですが、やはりParlies の名にお似合いなのは四角かな☆

丸型もありですが、やはりParlies の名にお似合いなのは四角かな☆

お次は「Scotish Perkin」。ヨークシャーなど北イングランドのオーツ入りのケーキタイプのパーキンが有名ですが、実は地方地方によりパーキンにも様々なスタイルが存在します。綴りも「Parkin」 より 「Perkin」 となることの多いスコットランドのパーキンはオーツ入りのビスケットタイプが主流。ルーツは一緒なので、材料もオーツにトリークル、ジンジャーと非常に似ているのですが、見た目食感と共にまったく別物。そしてさらに別物なのが、オーブンが家庭に普及する前のパーキン。グリドル(直火に直接かけて使う丸い鉄板)で焼く「ドロップスコーン(またはスコッチパンケーキ)」を覚えていらっしゃるでしょうか?あんな感じでグリドルに直接生地を落として焼いていたそう。なんだか美味しそう~と興味がわいたのでレシピを探して作ってみると~食感はソフトな、でもオーツの噛み応えもあるジンジャー味の小さな薄焼きケーキ。熱々にバターを塗っていただくとこれはこれで美味。他のジンジャーブレッドと違い日持ちはそれほどしなそうではありますが。

オーブンで焼くビスケットタイプとグリドルで焼くドロップスコーンタイプのパーキン☆

オーブンで焼くビスケットタイプとグリドルで焼くドロップスコーンタイプのパーキン☆

そして最後にもうひとつ「Paving stones」。1919年創業のスコットランドはFifeにある老舗ベイカリー「Fisher & Donaldson」。ここで作られているのがフィンガースタイルのジンジャーブレッド「ペイビングストーン」。ドライな食感にカランツ入りのビスケットタイプ、これに熱く煮詰めたシロップを絡めてコーティングしてあります。白い糖衣で覆われたどこか懐かしい日本にもありそうな焼き菓子。おいしいのですが、その名「Paving stones=敷石」のとおり相当固いので食べるにはほんの少しの注意とdunkする(浸す)ための紅茶必要です。

フランスのパンデピスにも似たようなものがありますね☆

フランスのパンデピスにも似たようなものがありますね☆

他にもスコットランドには、スコットランド北東の小さな村Fochabersの名が付いたビールとドライフルーツ入りの「Fochabers Gingerbread」など面白いジンジャーブレッドがまだまだありますが今日のところはこの辺りでおしまい~。

 

第79話 Lemon meringue pie・Chester pudding~レモンメレンゲパイ・チェスタープディング~

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<Lemon meringue pie ・Chester pudding レモンメレンゲパイとチェスタープディング>

日本より緯度的には北に位置するイギリス。柑橘類がたわわに実るわけでは決してないのに、日本よりずっとレモンやオレンジを使ったお菓子が豊富です。燦燦と降り注ぐ日差しをいっぱい受けて育ったフルーツを食べると、太陽のエネルギーごと吸収できるようなそんな気がするからかもしれません。お菓子だけでなく、マーマレードやレモンカードがあるだけで、暗い冬の食卓はぱっと明るくなり、不足しがちなビタミンも多少は補ってくれたことでしょう。レモンを使ったイギリスのお菓子の代表選手といえば「レモンドリズルケーキ」が筆頭に挙がりますが、次席はおそらく「レモンメレンゲパイ」。 ショートクラストペストリーにきりりと甘酸っぱいレモンのクリーム。そしてこれでもかとたっぷりとのせられたふわふわの雲のようなメレンゲ。バターたっぷり濃厚フィリングのフランス版タルト・オ・シトロンとの違いは、フィリングのレモン果汁に水とコーンスターチが入る点。独特のぷるんと固まった食感が特徴です。くどすぎず、かつ酸味しっかりのレモンフィリングは、甘~いメレンゲとのコントラストも絶妙で、大きなカットもぺろりといけてしまいます。メレンゲを作る際は、わざわざ手間の掛かるイタリアンメレンゲなんかにはしませんから、時間が経てばメレンゲが離水して水分が出始めますが、そんなことはお構いなし。第一あっという間にみんなのお腹へと消えてなくなってしまうから、そんな心配をする暇もないのでしょう~。

コーンスターチ入りのぷるんと爽やかなレモンフィリングが特徴です☆

コーンスターチ入りのぷるんと爽やかなレモンフィリングが特徴です☆

爽やかレモンフィリングとフワフワメレンゲ、こんな幸せな組み合わせを考えたのは一体どこの国の誰なのかについては諸説ありはっきりしていませんが、レモンメレンゲパイがイギリスで長いこと人気のお菓子であることは間違いありません。「レモンメレンゲパイ」というと、ピーカンパイやキーライムパイ同様アメリカンな香りが若干漂いますが、「Chester pudding(チェスタープディング)」、こう呼ぶとどうでしょう?一気にイギリス菓子っぽくなりますね。チェスタープディングとはヴィクトリア時代に人気の出たプディングのひとつ。プディングと名がつきますが、ほとんど今のレモンメレンゲパイと構成は一緒。ペストリーの上に、レモンフィリングとメレンゲののったパイです。フィリングはバターとレモン、お砂糖と卵黄で作るレモンカードのようなクリーム、そこにアーモンドパウダーが少し入り、コクとテクスチャーが加わえられています。これがイギリスの元祖レモンメレンゲパイと言われています。同じく「チェスタープディング」という名でブラックカラントジャム入りのパン粉とスエット、卵で作るスチームタイプのプディングも存在しますが、この名前としては、前者のレモンメレンゲパイタイプのほうがより一般的だったようです。lemon meringue pie1

このヴィクトリア時代から人気のあったレモンメレンゲパイが一時食べられなくなってしまったことがあります。それが第二次世界大戦下と終戦後しばらくの間、イギリスで食糧配給制度が採られたときのこと。お砂糖より卵がずっとずっと貴重品だったこの時代、卵を3~4個も使うレモンメレンゲパイは夢のまた夢のデザート。当時、政府からの食生活アドバイザーとして活躍していたMarguerite Patten 氏は、後にBBCテレビで「Real lemon meringue pie(卵を使った本物のレモンメレンゲパイ)」をデモンストレーションできた時は本当に喜びを感じたと述べています。それもそのはず、食糧配給制度下のレモンカード(卵なし)の作り方を見てみると~なんと卵の代わりにマーロー(大きなズッキーニのような野菜)を蒸してピュレにし、それに砂糖とレモンを加えて煮詰めてレモンカードを作りましょう~と書いてあるのですから。。。

黄色と白の組合せもなんて爽やか☆

黄色と白の組合せもなんて爽やか☆

さて、マーローで作るレモンカードにも若干興味はありますが、今日は卵を使った美味しいレモンカードを作りましょうか。

  1. 小鍋に卵80gとグラニュー糖80gを入れて軽くすり混ぜます。
  2. レモン果汁2個分(約75cc)とレモンの皮のすりおろし1個分、小さくカットした無塩バター60gも加えて極弱火にかけて絶えずかき混ぜます。
  3. とろみが付いてきたら火から下ろしてすぐに裏ごし、煮沸消毒した瓶に詰めればできあがり。冷蔵庫保存で2週間以内に食べきりましょう。

※ 加熱しすぎると卵が固まってレモン風味のスクランブルエッグになってしまうので、心配な方は材料全部をガラスのボールに入れて、湯煎でゆっくり加熱しながら、しっかりとろみが付くまでかき混ぜてもOKですよ。

ホームメイドのレモンカードは一度食べたら病みつきに☆

ホームメイドのレモンカードは一度食べたら病みつきに☆

スコーンに塗って、トーストに塗って、はたまたヴィクトリアサンドにサンドしてもおいしいこのレモンカード。本当にお役立ちなので是非お試しを。ただし、一度ホームメイドを味わってしまったら二度とスーパーの瓶入りには戻れませんのでご注意を(^^)

 

第80話 Teisen lap/Tewkesbury saucer batters ~テイセンラップ/テュークスバリーソーサーバッター~

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<Teisen lap /Tewkesbury saucer batters テイセンラップ/テュークスバリーソーサーバッター>

ウエールズのお菓子といえば、ウエルッシュケーキバラブリスの2つがとても有名ですが、もうひとつウエールズ地方のレシピ本を眺めていると必ずといっていいほど登場するのが「Teisen lap(テイセンラップ)」。ウエルッシュケーキやバラブリスも素朴なお菓子ではありますが、それよりさらに家庭的な要素が強いため、お店で見かける事は少ないものの、実はウエールズのお茶のテーブルによくあがっていた昔ながらのお菓子です。

パイ皿をお皿で焼くのなら、ケーキだって焼けるはず☆

パイ皿をお皿で焼くのなら、ケーキだって焼けるはず☆

それにしても、ちょっと耳慣れない響きの名前ですよね。Teisen はウエールズ語でケーキの意味、シードケーキならteisen carawe (caraway seed cake)、蜂蜜入りのケーキならteisen mêl(honey cake)となります。ではteisen lapはと言うと、訳して「plate cake」。お皿ケーキ?そう、お皿のケーキという意味です。実はこのお菓子、伝統的に浅いお皿で焼かれていたのでこんな名前がつけられているのです。気になるお味のほうはしっとりした素朴なカランツ入りケーキといったところでしょうか。見た目から想像がつくように作り方もとっても簡単、家庭で日々おやつとして焼かれてきたケーキと言うのも納得です。小麦粉にその半分の量のバターかラードを加えて、rub in(さらさらの状態に)し、お砂糖とカランツ、卵と牛乳を加えて混ぜるだけ。これを浅いお皿に入れてオーブンで焼いたら、ハイ完成☆というもの。そうそう、風味づけに加えるナツメグも忘れてはいけませんでした。地域によっては、加える水分を少なめにしてめん棒で伸ばせる固さの生地にし、グリドルで焼くというレシピもありますが、お皿に入れて焼くほうがず~っと簡単。こちらのほうがケーキらしいしっとり感も楽しめますし、なんと言ってもプレートケーキですからお皿に入れて焼かないと、ですよね(^^

rub in から始まるお菓子は気楽に作れるのがいいところ☆

rub in から始まるお菓子は気楽に作れるのがいいところ☆

さて、『お皿で焼く』つながりで今日はもうひとお菓子をご紹介。こちらはGloucestershireにある古いマーケットタウン Tewkesburyのお菓子でその名も「Tewkesbury saucer batters(テュークスバリーソーサーバッター)」。ちょっと長い名前ですが、この名が全てを説明しています。「テュークスバリーのソーサーで焼くバッター」~Batter(バッター)とはヨークシャープディングを作るときのような、卵と牛乳、少しの小麦粉で作るゆるい生地のこと。クレープの生地のようなものと言ったら分かりやすいでしょうか。このお菓子はお皿はお皿でも、ティーカップのソーサーでそのバッターを焼くお菓子なのです。ヨークシャープディングのバッターとちょっと違うのは、卵白を泡立ててから加える点。生地自体はシンプルで甘みもほとんどないので、フルーツにお砂糖を加えて加熱したものを上にたっぷりのせていただきます。テュークスバリーの辺りは果樹園が多いのですが、その収穫の労をねぎらうためによく振舞われたといわれています。フルーツはラズベリーなどのベリー類から、ルバーブやプラムなどその季節季節のものが使われたそう。ソーサーで一人分ずつ焼くので、取り分ける手間もなく、焼いたお皿のままサーブできるので合理的といえば合理的。

生地がシンプルな分、どんなフルーツとも相性◎

生地がシンプルな分、どんなフルーツとも相性◎

カップケーキなら思いつきそうだけれど、ソーサーケーキなんて、その発想に座布団一枚!ですね。でも今回の『お皿ケーキ』の味比べ、残念ながら軍配はテイセンラップに。ウエールズの家庭の味 「Teisen lap」。気になる方は是非一度お試しを~☆

  1. 薄力粉225gとベーキングパウダー小さじ2、ナツメグ小さじ半分を合わせてボールにふるい入れます。冷たいバター110gを角切りにして加えたらrub in(指先を使ってさらさらのパン粉状に)します。
  2. ブラウンシュガー110gとカランツ100gを加えて軽く混ぜ、卵2個と牛乳を100~150cc(生地をすくってぽったりと落ちる程度まで)加え、なめらかになるまで混ぜ合わせます。
  3. 直径20cm位のバターを塗った浅い型に生地を入れ、180℃のオーブンで約40分、表面に弾力が出て、中央に火が通るまで焼いたら出来上がり。

型はお皿でなくとも、浅めのものならなんでもOKですよ。
Brew your tea and enjoy Welsh tea time !

 

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