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Channel: イギリスおかし百科 –あぶそる〜とロンドン
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第121話 Black bun ~ブラックバン~

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イギリスおかし百科


<Black bun ブラックバン>

ある意味ショートブレッドより、スコーンよりさらにスコットランド的なお菓子といえるのが今日ご紹介する「Black bun(ブラックバン)」。その名のとおり真っ黒なフルーツケーキをペストリーで包んで焼くという、他の地方では見かけない非常にどっしりしたケーキです。ホームメイドの場合は簡単にベーキングパウダーをちょっぴり加えたショートクラストペストリーを使うことが多いのですが、ベイカリーで買ってくるものはイーストで発酵させた少しふっくらした生地で覆われています。生地は上下だけの場合もあれば、すっかり覆っていることも。気になる真っ黒な中身の方はというとクリスマスケーキのようにぎっしりとドライフルーツが詰まったフルーツケーキ。たっぷりのカランツにレーズン、作り手によってはシトラスピール、これまたたっぷりのスパイス類にモスコバドシュガーのような真っ黒なお砂糖が入ります。こんなヘビーなケーキがさらにペストリーで包んであるのですから、寒いスコットランドの冬にもぴったり。

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今でこそ冬に限らず1年中見かけるブラックバンですが、これだけ材料も必要な贅沢なお菓子ですから、伝統的には特別なときに食べるもの、それもHogmaney(ホグマニー)と呼ばれる、スコットランドの年越しのお祭りのために作られるものでした。イギリスの他の地域と違い、クリスマスより、年越しのホグマニーを大々的に祝うスコットランド。12月になるとスコットランドのベイカリーには山のようなブラックバンが並ぶのだとか。一説によるとスコットランド女王Mary Stuartがフランスより戻ってくるときに持ちこまれたとも言われているこのブラックバン。当時は1月5日のトゥエルフスナイト(十二夜)に食べるものだったそう。そして以前ご紹介したtwelfth night cake と一緒、ケーキの中に豆を一粒隠しておき、それを当てた人が一晩王様になれるという習慣もありました。しかし当時プロテスタントが強い権力を持っていたスコットランドではクリスマスを祝うことを良しとされなかっため、トゥエルフスナイトではなくホグマニーを祝う際に食べられるようになっていったのでした。またバイキングの影響を色濃く受けているホグマニー。新年最初に家に訪れる訪問者First Footingが黒髪、色黒の長身の男性だと幸運が訪れる(金髪の白人男性は北方から侵入してきたバイキングを連想させるため)と言われています。しかも彼が片手にこのブラックバン、あるいはショートブレッドを手にしていれば、新しい一年食べ物に困ることなく暮らせるのだとか。

ショートクラストペストリーで包んだ素朴なホームメイドバージョンもなかなか美味しいのです☆

ショートクラストペストリーで包んだ素朴なホームメイドバージョンもなかなか美味しいのです☆

ところで、昔のブラックバンはどんな姿をしていたのでしょう。実はブラックバンという名称が使われ始めたのはわりと最近で20世紀に入ってから。それ以前はScotch bun/ Scotch Christmas bun スコッチバン/スコッチクリスマスパンと呼ばれており、今ほど重量感のあるものではなかったようです。それが19世紀に入り、砂糖やドライフルーツなどの材料が手に入りやすくなってから徐々にリッチになっていき、Robert Louis Stevenson が “dense, black substance, inimical to life・・・” (重く黒い人生に有害なもの)と表現したことによりブラックバンと呼ばれるようになったのだとか、、。black bun3

 

さっくりペストリーと濃厚なケーキのコントラストは確かにスティーブンソンの描いたジキル博士とハイド氏のように両面的ではありますが、新しい年の始まりに、来る1年の豊穣を意味してくれるこのブラックバンは人生に有益なものだと思うのですが。美味しいし、、。

 


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